華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Life Is Water もしくはとある誰かへの誕生日プレゼント (2001. Sim Redmond Band)


Life Is Water

Life Is Water

英語原詞はこちら


Blue skies, a gentle rain has washed away yesterday worries
No anger, there's no blame, the love in our hearts set us free again

青空。
きのう心を苦しめていたことは
やさしい雨がすっかり
洗い流してくれた。
怒りもないし
誰も悪くない。
ぼくらの心の中の愛が
もう一度ぼくらのことを
自由にしてくれる。


Would you say life is water?
It's noisy timid and strange
Maybe when we're older, it's calming down, but never aging

人生は水だって
あなただったら言うのかな。
耳ざわりでおどおどしてて
わけのわからないもの。
わたしたちがもっとおとなになったら
静かになって行くんだろうけど
それ自体は年をとらない。


I know I let you down, but eventually everyone's bound to
But we all do the best we can, and sometimes we all need a hand

ぼくはきっときみを
がっくりさせることになるんだろうけど
最後には誰だって
そうなるようになってるものさ。
それでもぼくらはお互いベストを尽くすし
そして時々はぼくらの両方が
助けてくれる手を必要とすることになる。


It's easy to be wrong
Less trouble to stay away, easy to escape
Less trouble to stay silent

間違いをおかすことは
簡単なことだよね。
尻込みしてるより
面倒が少なくていいよね。
飛び出してしまうことは
簡単なことだよね。
黙ったままでいるより
面倒が少なくていいよね。


The pain in my heart won't be long
Won't be long, no the
Pain in my heart won't be long, won't be long

心の中の痛みも
いつかは消える。
長いことじゃない。
長くかかることじゃない。


We've come a long way, we've seen hard times
But through it all we stood tall, side by side
And together we still stand, and the love in our hearts set us free again

ぼくらは長い道を歩いてきたもんだし
つらい時もずいぶん
くぐってきたもんだよね。
でもぼくらはいつだってお互い
堂々と向き合ってきた。
そして今でもぼくらはこうして
一緒に立っているし
心の中の愛はぼくらのことを
何度でも自由な存在に変えてくれる。


You know when we get angry, we're children, forgetting what we've seen
And every little worry seems bigger than happiness could be

ねえ怒ってる時の私たちって
子どもなんだよね。
自分の目で見てきたはずのことを
忘れちゃってるんだよね。
私たちはいくらでも幸せになれるのに
とるに足らない小さなことの方が
それより大きく見えてしまったり
するもんなんだよね。


Blue skies, a gentle rain, make the truth seem so simple and plain
'Cause we all do the best we can
And sometimes we all need a hand

青空
と優しい雨は
真実というものをぼくらにとって
とてもシンプルでわかりやすいものに
変えてみせてくれる。
だってぼくらはいつだって
お互いベストを尽くすし
そして時々はぼくらの両方が
助けてくれる手を必要とすることに
なるんだから。


It's easy to be wrong
Less trouble to stay away, easy to escape
Less trouble to stay silent

間違いをおかすことは
簡単なことだよね。
尻込みしてるより
面倒が少なくていいよね。
飛び出してしまうことは
簡単なことだよね。
黙ったままでいるより
面倒が少なくていいよね。


The pain in my heart won't be long
Won't be long, no the
Pain in my heart won't be long, won't be long

心の中の痛みも
いつかは消える。
長いことじゃない。
長くかかることじゃない。

=翻訳をめぐって=

今回の翻訳記事はサブタイトルの通り、とある誰かへの誕生日プレゼントとして作成したものなので、本当だったら「翻訳をめぐって」なんて蛇足だし、ない方がカッコいいに決まっているのである。しかしそれを分かっていながらカッコよく決めることができなかったのは、

It's easy to be wrong
Less trouble to stay away, easy to escape
Less trouble to stay silent

という部分の訳し方が、私にとってあまりに難しかったからなのだ。

この歌の和訳を試みているサイトは他にも一つだけ見つけることができたが、そこではこの部分が

間違いをしでかすよりも易しいことは、
それを避けることで
そうしたトラブルを少なくすること 。  
逃げることよりも容易なことは
口を閉ざすことで
つまらないトラブルを減らすこと。

と訳されていたのだった。しかし一読して私はそれを、「違うのではないか」と思ったのである。「It's easy to be wrong (間違いを犯すことはたやすい)」というのは至ってシンプルな英語だし、それが最初に耳に入ってくる以上、英語話者なら誰でもその部分は「間違いを犯すことはたやすい」という意味にしか「聞こえていない」はずなのだ。ややこしいのは後半の「Less trouble to stay away」なわけだけど、文章の構造から判断するにこの部分は前半で提示された「間違いを犯すことはたやすい」という「命題」の「補足説明」になっているか、さもなくば「ドンデン返し」になっているか。そのどちらかであるとしか考えられない。すなわち「stay away (距離を置く/尻込みする)」は「間違いを犯すという簡単なこと」よりも「さらに難しい」と言っているのかあるいは「さらに簡単である」と言っているのか。問題はその一点に絞られていると考えられる。

で、その答えをどちらか一方に絞り込むことが、私の力ではどうしてもできなかったのである。だって、こんな言い回し、初めて見たもの。「知らないこと」についていくら考えてみたって、「正解」なんか見つかるはずはない。

だが私には、こういう時に心強い味方が沢山いる。三年間にわたるブログ生活は、その中で何人もの海外在住の日本語話者の人たちとの出会いを私にもたらしてくれたのだ。瓶詰めにした手紙を海中に投じるような気持ちで海外サイトの掲示板に書き込みをするぐらいしか方法が見つからなかった初期の頃と比べ、今では翻訳の正確さの確認作業も何と楽になったことだろう。そんなわけでとりあえず私は上の部分の歌詞を

間違うことは簡単だ
距離を置くことの方がずっと難しい

と翻訳し、これで合っているかどうかをいろんな人に尋ねてみた。するとたちまち、心強い友人の皆さんから返事が返ってきた。

まずは、カナダ在住のYさんの答え。

ナギさん、おはこんばんは。うーん、どうでしょう。おっしゃりたいニュアンスは分かるのですが、どこで文を切るかによって変わるのではないでしょうか。カクカク短文切り(歌詞であれば)の場合は一文ごとの意味が独立すると思われますし、全体で見ればナギさんのニュアンスも間違っていないと思います。毎度毎度、こんな回答ですみません。

less than ならシンプルでいいのですが、それが端折られて書かれているのかどうかは分かりません。書かれている元訳(上に引用した他サイトのもの)も微妙に感じますが。やはり、私程度の力ですと、こんな答えしかありません。すみません。

次に、パラグアイ在住のTさんの答え。

前後の文脈にもよりますが、[間違いを犯すのは簡単、遠ざけたほうが面倒は少ない。逃げ出すのは簡単、黙ってたほうがうまく行く。]
みたいな皮肉の文章ともとれるかな?って思いました。前の文章を受けてのLessだと、仰るような感じかも。因みに私の英語力は酷く低く、意訳しかできませーん。笑

…何て、頼りがいのある人たちなのだ。と私は皮肉でも反語でもなく、心からそう思った。どちらのかたも「知ったかぶり」はせずに分からないことは分からないということをハッキリ伝えてくださった上で、「自分はどう感じたか」ということについてもしっかり伝えてくださっている。こういうのを「信頼される態度」と言うのだろうなあ。自分も常にこうありたいものだなあ。そしてこうした友人の皆さんというのは本当に一生大切にしていきたいものだなあ。としみじみ思った。しかしながら結果として、「答え」は出なかったわけである。むしろ謎は深まってしまったとも言える。

こうなったら結局、ブログの初期によくやっていたように、海外の言語学習サイトの掲示板に質問を書き込んで、答えが返ってくるのを気長に待つ方法しかもはや私には残されていない。この場合、難しいのは、質問を読んでくれる人が日本語を知っている可能性はゼロに等しいということだ。だから質問もなるたけシンプルにしなければならない。そんなわけで私は上記のフレーズを引用した上で、

A:距離を置くことは、間違いを犯すことより難しい。
B:距離を置くことは、間違いを犯すことより簡単だ。

どっちが正解ですか?

とだけ英語で書いて投稿した。すると割と即座に、インドネシア人の英語話者の人が「B」とだけ書いた返事をよこしてくれた。えらく無愛想な回答ではあるが、ネイティブの判断は値千金である。私はGoogle翻訳でインドネシア語の「ありがとう」を調べ、「Terima kasih」と書いて投稿した。

ところがB案で翻訳を確定させようと思ったその矢先に、今度はアメリカ人の人から以下のような回答が寄せられてきた。

Actually, in fact, it's easier to stay away (or do nothing) than to be wrong." Most people are afraid to do anything rather than to risk saying or doing the wrong thing. "A" is closer to that idea, I think.
「実際のところ、距離を置く(もしくは何もしない)ことの方が、間違いを犯すことよりずっと簡単だ」。ほとんどの人は、間違ったことを言ったりやったりすることに尻込みしてしまうものです。それに近いのはAだと私は思います。

…何ということだろう。英語話者の間でも解釈が分かれてしまうのである。しかし前者の人のぶっきらぼうさと比べ、後者の人の解説はとても具体的だ。これがやっぱり信頼性が高いかな、と思っていたまた矢先、今度は上記のTさんから再び回答が寄せられてきた。

今から出勤しますので、職場のカナディアンに聞いてみます。お答えが9時間後になると思いますが、ちゃんと報告しますね。

(9時間経過)

ナギさん、おはこんばんは。月末調整で遅くなってしまいました。帰宅したので結果を報告します。

今回聞いた人数は四人。二十代前半の女性、三十代中盤の男性、同じく三十代中盤の女性、五十代男性となっております。性別、年齢を出来るだけ分けて聞きましたが答えは皆同じだったので、間違いないと思います。(即答ではなかったです。ちなみにお願いした中の二人が、二番目の文がメイクセンスではないと言っていました)。

It's easy to be wrong, less trouble to stay away
It's easy to escape, less trouble to stay silent

間違うことは簡単だ、距離を置くより面倒が少ない
逃げることは簡単だ、黙っているより面倒が少ない

これがこちらからのファイナルアンサーです

…落涙ものである。ここまでして頂いた以上はこちらとしてもそれをファイナルアンサーにすることで応えるしかありえないと思い、上記のような試訳に落ち着いたわけなのだが、重要なのはむしろ、上に挙げた人たちの答えの中で「同じ答えが一つも存在しない」という事実なのではないかと思う。100%ネイティブな人たちも含め、それなりに英語が分かるはずの人間が6人も7人もそろっているのに、全員の解釈が割れてしまうのだ。これはもう、原文の英語が完全に「どうとでも読める英語」で書かれていると解釈する以外にない話だと思う。そこまであいまいな言葉を並べてみせることができるというのは、ある意味ですごい技術だと驚嘆せざるを得ない。それをあえて日本語で再現するならばどんな言い方になるだろうかと思い、いろいろ考えてみたのだったが、結局やめにした。それが「どんなふうにあいまいに感じられるのか」というその感じ方が、やっぱりいくら考えたって私にはわからないからである。

そういうのを、わかるようになりたいものだ。

というわけで、この歌が好きな12月1日生まれのとある誰かさん、誕生日おめでとう。37歳ならまだまだ若手で通用することと思います。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 2001.
Key: A