華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Trip Through Your Wires もしくは地雷を踏んだらさようなら (1987. U2)


Trip Through Your Wires

Trip Through Your Wires

英語原詞はこちら


In the distance
She saw me coming 'round
I was calling out
I was calling out

遠いところであのひとは
自分に向かってふらふらと
近づいてくる
わたしの姿をみとめた
わたしはそのひとのことを呼んでいた
わたしはそのひとのことを呼んでいた


Still shaking
Still in pain
You put me back together again
I was cold and you clothed me honey
I was down and you lifted me honey

そのときになってもまだ
震えていて
そのときになってもまだ
痛みを抱えていたわたしのことをあなたは
元通りにしてくれた
わたしが寒かった時にあなたは
服を着せてくれて
わたしが落ち込んでいたらあなたは
引っ張りあげてくれた


Angel
Angel or devil
I was thirsty
And you wet my lips

天使よ
それとも悪魔なのか
わたしが渇いていたとき
あなたはわたしの唇をぬらした


You, I'm waiting for you
You, you set my desire
I trip through your wires

あなただ
わたしはあなたを待っている
あなたなのだ
わたしの欲望に火をつけたのは
わたしはあなたが張りめぐらした
針金の罠のあいだを縫うようにして
あなたに近づいてゆく


I was broken, bent out of shape
I was naked in the clothes you made
Lips were dry, throat like rust
You gave me shelter from the heat and the dust
No more water in the well
No more water, water

わたしはこわれてしまって
苦痛にからだを折り曲げていた
あなたの作ってくれた服の中で
わたしは裸でいた
くちびるは渇き
のどは錆びついたようだった
あなたはわたしのために
太陽と埃をさえぎってくれた
井戸の中にもう水はない
もう水がない
水だ


Angel
Angel or devil
I was thirsty
And you wet my lips

天使よ
それとも悪魔なのか
わたしが渇いていたとき
あなたはわたしの唇をぬらした


You, I'm waiting for you
You, you set my desire
I trip through your wires

あなただ
わたしはあなたを待っている
あなたなのだ
わたしの欲望に火をつけたのは
わたしはあなたが張りめぐらした
針金の罠のあいだを縫うようにして
あなたに近づいてゆく


All I need
All I need
All I need
All I need
All I need
All I need
All I need, yeah yeah

わたしに必要なすべて
わたしに必要なすべて
わたしに必要なすべて
わたしに必要なすべて…


Thunder, thunder on the mountain
There's a rain cloud in the desert sky
In the distance she saw me coming 'round
I was calling out
I was calling out

雷鳴
山の上に雷鳴
荒野の空に
雨雲がひとつ
遠いところであのひとは
自分に向かってふらふらと
近づいてくる
わたしの姿をみとめた
わたしはそのひとのことを呼んでいた
わたしはそのひとのことを呼んでいた

=翻訳をめぐって=

「tripwire」というのは、ゲリラ戦などで使われるいわゆる「ブービートラップ」のことを指す言葉なのだという。草むらや水の中に張りめぐらされた針金の罠にうっかり敵が足を引っかけると、矢が飛んできたり石が落ちてきたり、落とし穴の口が開いたり、あるいはその針金で宙吊りにされてしまったりする。剣呑な代物である。

…「けんのん」という日本語を生まれて初めて使ってやったぜ。

「tripwire」の「trip」は「つまづく」という意味なのだけど、曲名の「Trip Through Your Wires」における「trip」は、「出かける」という意味でいいのだと思う。主人公が歌の中で「you」と呼びかけている彼女が、彼氏の行手に針金の罠をいっぱい張りめぐらしているような性格の悪い人であることは間違いないのだけれど、彼氏がそれに「つまづいた」場合、命を落とすというシャレにならない結果が生じてしまう。「trip through」というのはその罠をおっかなびっくり避けながら、彼女のところに何とか近づこうとしている彼氏の姿を描写したフレーズであると解釈するのが、正確なところだろう。その「trip」と「tripwire」とは、ここではおそらく「掛け言葉」になっているのだと思う。

…「おっかなびっくり」という日本語も、オトナになってから初めて使ってやったぜと思ったのだけど、念のため検索してみたら割と最近このブログでも使ったばかりだったのだったぜ。

冒頭、「私」でなく「彼女」が主語になっているのは、かなり独特な情景描写の仕方である。「彼女は彼女に近づいてくる私の姿をみとめた」。こういう視点から始まる映画や物語というのは、他にあまり知らない。「come around」というのは「遠回りしてやってくる」という意味なので、「私」はやっぱり「ブービートラップ」を避けながら、ふらふらと彼女のところに近づこうとしている、という絵になるのだろう。

この歌の歌詞に「謎」があるとすれば、「私が渇いているとき、彼女は私の唇を濡らした」という部分。果たして彼氏は彼女から「水を飲ませてもらった」のだろうか。それとも「拷問的な嫌がらせ」を受けたのだろうか。ラクダなんかだと口の周りを濡らしてやっただけでも暑い砂漠を結構歩いてくれるらしいけど、渇きで死にそうになってる人間に対して「唇を濡らすだけ」というのは、対応として、どうなのだろう。この部分に関しては、実は海外サイトでも、解釈が分かれていたのである。とはいえ、ストレートに「水を飲ませてくれた」と言わずに「唇を濡らした」という言葉があえて選ばれているところには、やはりそれなりの意味があるのだと思う。

Joshua Tree」に収録されている楽曲群の中では、この曲は割と「コミカルな曲」であるという扱いを受けているらしく、コンサートで演奏される際には、笑いを呼ぶような演出を加えられることが多いという話である。私は結局、一回も見たことがないのだけれど。

ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1987.3.9.
Key: G