華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

ロビー·ロバートソン自伝「Testimony」読書ノート #3.

#2 Testimony#4

  • 「Me with my first ax」というキャプションのついたロビーの写真。英語圏のギター弾きの人は、自分の楽器のことをしばしば「ax (斧)」と呼ぶらしい。何か、韓国の人が自分のクルマのことを「エーマ (愛馬)」と呼んでいるのをテレビで見た時と同じような印象を受けた。

ホークスのツアーでトロントに戻ったロビーは、「キャベツタウン (Cabbage Town)」と呼ばれる街にある母親の家に顔を出す。南部の食べ物もおいしかったけど、母親が作ってくれる料理の味は格別だ。

"Ma," I said, "you wouldn't believe the South. You wouldn t belleve all that I've seen down there."
「母さん」と私は言った。「南部のこと、絶対信じられないと思うよ。おれが見てきたこと。絶対信じられないと思うね」

"Try me," she said, smiling.
「言ってみなよ」。母は微笑んで言った。

"It's magical," I said. "There's music everywhere. Age doesn't matter. Background doesn't matter. Big or small, rich or poor, everyone shows up for the music."
「魔法みたいなんだよ」と私は言った。「至るところに音楽があふれてるんだ。年も生まれも関係ない。オトナも子どもも、金持ちも貧乏人も、みんなが音楽のあるところに顔を出す」。

My mother nodded, enjoying my excitement.
母はうなづいた。私の興奮を楽しんでいるようだった。

"I mean," I continued, my voice rising with enthusiasm, "I always kind of sensed there would be magic down there when I listened to my records. But actually going and smelling the air, seeing the way people walk and talk, all in the rhythm of the South it's so beautiful."
「つまりさ」。私はますます声を張りあげた。「おれ、自分の持ってるレコードを聞くたびに、あそこには魔法があるって、ずっとそんな感じがしてたんだ。でも実際にそこに行って、そこの空気を嗅ぐとさ。そこの人たちが歩いたり喋ったりするのを見てるとさ。全部が南部のリズムになってるんだ…スゴいよ」

My mother said, lowering her voice slightly, as if confessing a secret to me, "I just knew that's what you would feel. I don't know how, but I just felt all along that you'd discover something special down there."
母はまるで私に秘密を打ち明けるように、そっと声を低めて言った。「あんたがそんな気持ちになるんだろうなってこと、私には、わかってたよ。どうしてかは分からないけどね。でも、あんたがきっとそこで特別なものを見つけてくるだろうって、そんな感じがしてたんだよ」

We grinned at each other.
私たちはお互いに笑いあった。

"You had a feeling, huh?"
「そんな感じがしてたの?」

My mother wiped her hands on her apron and nodded modestly. She did believe in her own powers of precognition. I made my way back to the hotel with full belly and a warm heart.
母は自分の手をエプロンで拭って、優雅にうなづいた。彼女は自分に予言の力があることを信じていた。私はお腹をいっぱいにして、暖かい気持ちでホテルに戻った。

ロビーと、そして同じカナダ出身のマグーはめきめきと腕を上げて行くのだが、トロントの観客には変なこだわりがあって、「南部からやってきたR&Rバンド」という触れ込みのホークスの中にカナダ人が混ざっているのを見つけると、「ダマされた」ような気持ちになる人がかなりいたらしい。「何でカナダ人がいるんだ!」という野次が飛んできて、リヴォンが「何だありゃ」と慌てたりするのだが、ロニーは落ち着いたもので、「何も言われないよりずっといいさ」という対応だったとのこと。

ロビーは次第にバンドの中で、ロニーの「young show dog (若い見世物犬?)」としての位置をかちとってゆく。従来それはリヴォンの役回りだったのだが、リヴォンは気前よくロビーに「トーチを明け渡して」くれた。ロニーは会う人ごとに、「自分が見つけたロビーの才能」を自慢するのだった。「何よりこいつは」とロニーは客人の前でロビーの背中をバンと叩く。「ロバなみのモノをぶら下げてやがるんだぜ!」

…「Please don't listen to him (この人の言うこと、聞かないでください)」とロビーは客人に言い訳したと書かれているが、こういうエピソードをあえて自伝に書くということはロビー自身にも「自慢したい気持ち」がちょこっとあったからなのではないかと、オトコとしての感覚で私は思う。

ロビーの回想はまた過去に飛ぶ。8歳の時、彼の一家はトロントの東の外れにあるスカボロー·ブラッフスというところに引っ越した。オンタリオ湖に面した自然の豊かな場所で、同じトロントでもダウンタウンとは全然違った世界だった。

引越し先にはロバートソン家の親戚の人々がよく遊びに来るようになるのだが、その中でもとりわけロビーのお気に入りだったのが、手品を教えてくれるアルおじさんだった。このおじさんの影響もあり、ロビーは次第に自分の将来の夢を「手品師かミュージシャン」のどちらかへと絞りはじめる。具体的な問題は「どちらの方が効率的に女の子の気を引けるか」という点である。

また、彼が学校で友人たちから「ロビー」と呼ばれるようになるのはこの頃からだったとあるのだが、その理由は「ラストネームがロバートソンだったから」らしい。つまり「ロビー·ロバートソン」というのは、「まちだまちお」みたいな感じのアダ名だったということなのだな。

母親の親戚が住むシックス·ネイションズにも、年に4 〜5回は遊びに行っていた。ギターを弾けるおじさんがいて、ロビーにカントリーミュージックを教えてくれたという。「カウボーイの歌を歌うインディアンというのはおかしな(funny)ものだった」と、先住民としての立場からロビーは綴っている。

父親のジム·ロバートソン氏はしつけに厳しい人で、また暴力的なところもある人だったらしい。「軍隊にいたせいなのか。それについては何とも言えない」とロビーは回想している。幼い頃のロビーが、いたずらをしていると勘違いされて近所のおじさんから殴られそうになった時、ロビーを連れてその家に怒鳴り込みに行ってくれた父親のことを、「誇らしく思わずにはいられなかった」と彼氏は言う。けれどもスカボローに引っ越してから日が経つにつれ、両親ともに「酔っ払って家を空ける」ことが多くなってくる。このあたりからだんだんと、読む方も苦しくなってくる。

第1章に出てきた「ギター教室のチラシ」の話に、ここでようやく回想が追いつく。ロビーが通い始めたギター教室の先生は、ハワイのシャツを着た南国的な外見のビリー·ブルーという人で、ロビーはクリスマスプレゼントにもらったカウボーイの図柄入りのアコースティックギターを持って張り切って乗り込むのだけど、「きみの手はまだスパニッシュ·スタイルには小さすぎるから」と言われ、ハワイアン·ギターのスタイルで教えられることになった。ギターを膝の上に置いて演奏するスタイルである。「何だこりゃ」とロビーは思う。ジーン·オートリーもハンク·ウィリアムスもこんな弾き方はしていない。

それでもロビーはかなり真面目に練習し、ハワイアンの曲を何曲かマスターするのだが、ある日おなじ教室に通う年上の生徒から性的ないたずらをされそうになったことがほのめかされ、それきり行く気をなくしたとある。幼い彼は自分のカウボーイのギターのネックを左手で握りしめ、「準備はできた」とつぶやき、退会する。それがロビーの受けた、人生で唯一の「正規の音楽教育」だった。

その後、ホークスに参加する前年のロビーがトロントでロニーから恩を売られた話、「その報い」なのか何なのか、女性関係の話でホークスから痛い目に遭わされる話などが続くが、細かくは省略したい。

ではまたいずれ。