華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

ロビー·ロバートソン自伝「Testimony」読書ノート #5.

#4 Testimony#6

  • 実の父親の兄弟にあたる2人のおじさんと: 向かって左がモリー·クリーガーマン氏。右がネイティ·クリーガーマン氏。

ロビーが生まれて初めて出会った2人のおじ、モリー·クリーガーマン氏とネイティ·クリーガーマン氏は、どちらもトロントのユダヤ系社会を裏の裏まで知り尽くした魅力的な人物だったという。新しい親戚や同世代のイトコたちとの出会いを通じて、ロビーの世界は一挙に広がる。

ネイティおじさんから引き合わせてもらった実の祖父は、シュマエルという名前の敬虔なユダヤ教徒の老人だった。おじはシュマエル老人にロビーのことをイディッシュ語で説明し、老人の手がロビーの顔をなぞった。彼が自分の実の孫であることを悟った老人の目からは涙がこぼれ、そしてロビーに向かって英語で言った。

"Alex was my favorite. Your father was my favorite."
「アレックスはわしのお気に入りじゃった…お前の父親はいい子じゃった…」

…ロビーは祖父のこの言葉がネイティおじさんを傷つけるのではないかと心配するのだが(←繊細なのだ)、おじさんは「気にすることはない」と手をひらひらさせていた。この「パワフルな経験」にロビーもまた感動を覚えるが、同時に自分が「outsider (よそ者)」であるという感覚を、まだ拭い去ることができずにいた。

ネイティおじさんはユダヤ系のコネクションを利用して国際的な金融業に携わっている人物であり、然るべき投資先さえあればロビーと母親の財産をいつでも1ヶ月で二倍にしてみせると請け合った。彼はそれまでの人生で出会ってきた人々の中で最も有能でチャーミングな人物だったと、ロビーは綴っている。

"How do you retain all these facts, and keep all these numbers in your head, without writing anything down?" I asked.
「おじさんはどうしてそんなにいろんな数字や情報を、紙にも書かないで覚えていることができるんですか?」と私は訊ねた。

"Our bloodline is blessed with a very special gift of memory," Natie explained. "My mother never wrote down a name, a number, an address. And maybe it was for the best, too, when it came to dealing with the authorities. Your father also had this, especially when it came to poker. You're very lucky. Have you ever noticed you can remember things that other people couldn't imagine?"
「我々の家系は、記憶力に恵まれているのだ」とネイティは説明した。「私の母親(ロビーの祖母。大恐慌時代に密造酒を作って子どもを育てていたという)は、名前や数字や住所を紙に書くことは一切なかった。取り締まりの役人を相手にするには、それが一番いいやり方でもあったんだろう。お前の父親にも同じ力があった。とりわけポーカーの時はすごかった。お前はラッキーなんだよ。今まで、他の人間には想像もできないようなことまで自分が覚えていられるということについて、気づいた経験はないかい?」

I had a flash of realization. "You know," I said, "in school, I could remember everyone's name, where they lived, stories they had told. After a while I had to pretend not to remember, just so the kids and teachers wouldn't think there was something peculiar about me."
思い当たることがあった。「そういえば」と私は言った。「学校にいた時は、みんなの名前や住所、してくれた話、何でも覚えてることができたんです。しばらくすると、覚えていないようなフリをしないといけないことに気づきました。他の子や先生たちから自分が変なやつだと思われないようにするためです」。

"There you go." He smiled, gratified. "You got it, that's the Klegerman memory.
「それだよ」。彼は満足そうに微笑んだ。「それがクリーガーマン家の記憶の力なのだ」

ロニー·ホーキンスはロビーの「カラフルな」家族の話を面白がり、会ってみたいと言い出すようになる。そして実際にネイティおじさん夫妻と対面したりして、その様子がまるで剣豪同士の緊張感に満ちた邂逅を描くような筆致で、描写されている。

またある時には育ての親のジム·ロバートソン氏が、ロビーの演奏を見るためにトロントのナイトクラブを訪れたこともあったという。ショーが終わった後、ロバートソン氏はロビーのことを誇りに思うと言い、また彼がいつか大物になることが自分には分かっていたと言った。ロビーは感動する。暴力や辛い日々の記憶はありつつも、彼は自分の中にロバートソン氏のための「warm place (暖かい場所)」を保持していた。「彼は今でも私が知っている唯一の父親だ」とロビーは綴っている。

しかし何と言ってもホークスのメンバーを魅了したのは、ロビーの母親のキャラクターとその料理の腕前だった。ロニーをはじめメンバー一同は、ほどなく「キャベツタウン」にある彼女のアパートに入り浸るようになる。彼らは彼女の料理を一口食べるごとに「oohs」とか「ahhs」とかいった至福のうめきをノンストップで漏らし、満足と悦びでぶっ倒れていたといったような描写があるのだが、そういったマンガ的な誇張から伝わってくるのは、むしろロビーがいかに自分の母親を自慢するのが好きな人であるかということに他ならないようにも思える。母親のドリーさんにユダヤ人の血は全く流れていないのだが、ロビーのバックグラウンドがあまりに複雑であることと、ロビー自身説明するのがめんどくさくなったことから、ドリーさんはほどなくホークスの面々に「ママ·コッシュ」と呼ばれるようになった。「ユダヤ教の食事規定に従った食品」を意味する「kosher」という言葉からついたニックネームであり、同時に「本物の」とか「清浄な」といった意味もあるらしい。自伝の中ではこのエピソード以降、ロビー自身が時々ドリーさんのことを「ママ·コッシュ」と呼んでいる。きっとメンバーの全員から母親が人気者になったことを、誇らしく思っていたからなのだと思う。

この後、トロントにやって来たボ·ディドリーがホテルでロニー·ホーキンスと大騒ぎをやらかすエピソードなども挟まれるが、ほとんど他愛もないエロホラ話なので割愛する。

ギタリストのフレッド·カーターがバンドを去る日が近づくにつれ、ロニーがステージでロビーにギターソロを弾かせる場面が増えてくる。そしてこのことが、元々折り合いの悪かったフレッドとロビーの関係を一層ピリピリしたものにさせてゆく。リヴォンの自伝によるならばこのフレッドという人は、ナッシュビルのスタジオミュージシャンの給料がホークスの20倍も高いことを知ってバンドを離れ、後に大金持ちになったらしいのだが、けっこう職人的な縄張り意識の強い人で、ロニーからロビーの教育係としての役目を任されていたにも関わらず、ロビーにギターのことを何も教えてくれなかったらしい。ロビーはこの意地悪な先輩から、必死で技術を盗みながら練習に励んできた。

ある日ロビーは、自分が練習の虫になっている姿を見てフレッドが陰口を叩いているのを耳にする。

"Well, you need to be practicing yourself" I shot back.
「あんた、自分の練習をしたほうがいいよ」。私は言い返した。

"Oh, really? Why's that?" he said.
「ほお?なんでだい?」と彼が言った。

I looked up at him. "Because someday I'm gonna cut you."
私は彼を見上げた。「そのうちあんたのことなんか追い出してやるからさ」

Fred granted me the courtesy of a small laugh but then muttered, "Okay, that's it. The guitar lesson is over." After that he never played another solo facing me so I could see what his fingers were doing.
フレッドは私に軽い笑いで応える礼儀を見せたが、その後につぶやいた。「そうかい。ならギターのレッスンは終わりだ」。それからというもの、彼は二度と私の方を向いてソロを弾かなかった。私に指の動きを見せないためだ。

Yep, this was high noon and the Wild West.
そう。それは西部劇の真昼の決闘だった。

…原文を引用したのは翻訳に自信が持てない部分が多かったからなのだけど(「cut」という言葉の意味、「so I could see…」の「so」の使い方、「high noon and the Wild West」という印象的なフレーズのニュアンス等々)、こういう世界に放り込まれたら私なら絶対にストレスでつぶされてしまうな。「負けずに頑張る」道を選んだら今度は絶対後輩に同じ仕打ちをせずにはいられなくなってしまうような気がする。なかなか、淡々と読み進めることができない。

フレッドの代役として、ロニーはロイ·ブキャナンというギタリストを南部から連れてくる。二本のギターをいっぺんに弾いているのではないかと思えてくるほどのテクニックの持ち主で、ロビーは新たなライバルの出現に身構えるのだが、この人は相当に変わった人物であったらしい。

「おれは半分は人間で、半分はオオカミなんだ」とロイが我々に打ち明けた。我々はみんな彼を見つめた。「そして時々、困ったことになる。とりわけ、満月の夜だ」

「どうして?何が起こるの?」と私は訊ねた。確かにロイは、やぎヒゲやべったりした長髪からして、我々と比べてもずっとボヘミアン的だったが、しかしオオカミ?

「うむ」とロイはいかめしく言った。「時々夜中になると、悪い夢に悲鳴をあげて飛び起きることがあるんだ。ある時にはヒゲに血がついていた。ベッドの中にもだ」

「オオカミ男の話をしてるように聞こえるぜ」とロニーがからかった。

「そう。それなんだ」。そしてロイは、その野生を鎮めることのできる道は修道女と結婚することだけなんだと我々に宣言した。後に私は、彼が本当に元修道女の人と結婚したと聞いた。

…この人は結局ロニーに気に入られなくてすぐに自分から出て行ってしまうのだけど、去り際にロビーに向かって「もっとうまく、もっと早く弾け。おれに言えるのはそれだけだ」という言葉を残している。けっこう「いい人」だったという印象を、ロビーの文章からは、受ける。ロビーはとうとう、リードギターの座を手にした。

When I graduated to lead guitar, it felt like a natural transition to start playing a cream-colored solid-body Fender Telecaster, the guitar du jour for the likes of James Burton, Roy Buchanan, and of course Fred Carter Jr. So I traded in my red Gibson 335 and became a man.
リードギターに進級した時、ジェームズ·バートンやロイ·ブキャナン、そしてもちろんフレッド·カーター·Jrのお気に入りだった当代流行のギター、クリーム色をしたソリッドボディのフェンダー·テレキャスターに乗り換えることは、自然の摂理であるように思われた。それで私は赤のギブソン335を下取りに出し、オトコになった。

…吹かしてくれるやないかジェイミー。ロビーはますます腕を上げてゆく。

This was 1961 and, if nothing else, I was for sure early. Levon's trust in me pushed me further. Almost daily he gave me reasons to believe. "Son," he said in his down-home, brotherly way, "nobody's doing what you're doing. You want to know why? Because nobody can do what you're doing."
時は1961年で、そう言ってよければ確かに、私は時代に先がけていた。リヴォンは私のことを信頼し、そして背中を押してくれた。毎日のように彼は、自信を持たせるような言葉をかけてくれた。「なあ」。彼は南部的な、兄弟みたいな口調で言うのだった。「お前がやってるようなことは、誰もやってないぜ。何でか知りたいかい?お前がやってるようなことは、誰にもできないからさ」。

I wanted to believe him. In Ronnie Hawkins's music I'd found a sweet kind of violence: it was hard and tough and rugged and fast -but tight. I was trying to do something with my playing that was like screaming at the sky. Levon understood on a deep level what I was going for, and in those moments when I doubted my progress, he showed the generosity and willingness to hold up a mirror and wink approvingly. If Mark Lavon Helm from Marvell, Arkansas, digs what I'm doing, I figured, it must be okay.
私は彼の言葉を信じたかった。ロニー·ホーキンスの音楽の中に、私は甘く優しい暴力を見出していた。それはハードでタフで、ゴツゴツしていて速くて…そしてタイトだった。私は何と言ったものかそれを、自分の演奏で、空に向かって叫ぶような感じにさせたいと思っていた。リヴォンは私のやろうとしていたことを、深いレベルで理解していた。そして私が自分の上達に自信を持てずにいる時には、持ち前の心の広さと積極性で私の前に鏡をかざし、満足そうにウインクしてみせてくれた。アーカンソーはマーヴェルのマーク·リヴォン·ヘルムが私のやっていること、思い描いたことを気に入ってくれたなら、それは「OKだ」ということなのだ。

かーっ。吹かしてくれるなあ。南部に戻ったホークスはオクラホマやテキサス、アーカンソーの大学で演奏することが増えたらしいのだけど、そんな風に音楽の世界で一本立ちしつつあったロビーにとって、大学に通っている同世代の若者たちの姿は、複雑な感情を呼び起こしたらしい。ツアーを重ねる毎日が「空っぽな感じ」がしたと、ロビーは綴っている。その空虚さを満たそうとするかのように、彼は読書に夢中になった。南部の風景が彼の人生を変えてくれたように、彼が手に取ったのはウィリアム·フォークナーやユードラ·ウェルティ、フラナリー·オコナーといった南部の文豪たちの作品だった。ロニー·ホーキンスはロビーがそんな風に読書に明け暮れていることが気に入らず、しょっちゅうイヤミを言っていたらしい。

カナダのオンタリオ州グランド·ベンドというリゾート地でのライブで、新たな出会いが訪れる。

One night a little band from Simcoe, Ontario, opened for us. We had seen them before, and I remembered especially their leader, the youngest guy in the group, a good-looking eighteen-year-old kid who played rhythm guitar and sang in a voice reminiscent of Sam Cooke. You can just spot a musician who's got the goods. You can sense it in an almost tribal way. Rick Danko had it. Levon and I nudged each other as he sang-this guy was a contender. And when we met him, there was a connection between his personality and his performance, a nervousness and excitement that came out as a kind of jittery electricity. We pointed him out to Ron, but the Hawk was already on it. With one of Rebel's feet already out of the band, Ron wasted no time in offering the kid a job if he would learn to play bass.
ある夜、オンタリオ州シムコーから来た小さなバンドが、私たちの前座をつとめた。以前にも見たことのあるグループで、私はとりわけその中でも一番若い、リーダーのことをよく覚えていた。リズムギターを弾いていて、サム·クックを思わせる声で歌っていた18歳の男前だ。何かを持っているミュージシャンは、自然と目につく。どんな些細なことにも、それを感じることができる。リック·ダンコには、それがあった。彼が歌うのを見て、リヴォンと私はお互いを肘でつつきあった。好敵手の出現だ。彼と会った時、その人となりと演奏にはある種の関係があることが分かった。ジリジリするような電気的興奮から生じる、神経質さと高揚感だ。我々はロニーに彼のことを教えたが、ロンはとっくに目をつけていた。(ベースの)レベルがバンドから片足を抜きかけていたその時、ロンは時間をムダにするようなことはしなかった。彼はその子に、ベースを勉強するなら仕事をやると持ちかけた。

Young Rick was overwhelmed by the proposition. It was an incredible opportunity but it would mean undoing his entire life. Despite his obvious musical talent, the band he led was little more than a hobby. He had a full plate back in Simcoe, with a serious girlfriend he planned to marry and a job as a butcher's apprentice that promised a steady ca reer cutting meat. Picking up with the likes of us meant taking a huge risk, but Rick could see something serious with Levon and me that held great appeal. And in the end he did the right thing: he blew off his past and gambled on the future. Over that summer in Grand Bend, Rick went from butcher's apprentice to bass player apprentice, with Rebel, Levon, and me as his would-be teachers.
若いリックは、そのオファーに圧倒された。それは信じられないようなチャンスだったが、それを受けることは彼の人生を丸ごとリセットすることを意味していた。誰の目にも明らかな彼の音楽的才能にも関わらず、彼のやっていたバンドは趣味に毛の生えたようなものでしかなかった。彼の人生のレールはシムコーで完結していた。結婚を考えているシリアスなガールフレンドもいたし、肉の解体業者としての安定した将来が約束されている肉屋の見習い職人としての仕事もあった。我々の話に乗ることには、巨大なリスクが伴った。だがリックは私とリヴォンの呼びかけに、シリアスなものを感じ取ったのだ。そしてついに彼は、正しいことをした。自分の過去を投げ捨てて、未来に賭けたのだ。グランド·ベンドのその夏を経て、リックは肉屋の見習いからベースプレイヤーの見習いになった。レベルとリヴォン、そして私を未来の教師としてである。

…Rick had entered a whole new world, one that was light-years away from small-town Simcoe. He was finding out quickly that this adjust- ment involved changing everything: his tastes, his abilities, his back- ward personality and unhip ways, and even his approach with girls. But boy, was he a quick study. He watched, he learned, he practiced. He was on a mission to turn himself inside out.
…リックは完全に新しい世界に足を踏み入れた。小さなシムコーの街を何光年も後にして。彼はそれに自分を合わせることが、すべてを巻き込んだ変化を不可避とすることをすぐに悟った。自分の好みや能力、引っ込み思案な性格や垢抜けない趣味、それに女の子へのアプローチの仕方に至るまで。けれども少年、彼は、飲み込みが早かった。彼は観察し、学び、練習した。彼は自分自身を引っくり返すという使命のもとにあったのだ。

…「But boy, was he a quick study.」という文章が、日本語版ではどう訳されているのかが気になる。意味は大体わかるけど、ニュアンスがつかめない。それにしても、どんどん佳境感が出てくるなあ。

そんなところへ、バンドを離れた謎のギタリスト、ロイ·ブキャナンをロニーが呼び戻そうとしているという話が入り、ギブソンをテレキャスに持ち替えたばかりのロビーに、緊張が走る。そしてグランド·ベンドのインペリアル·ホテルを舞台に、ホークスのリードギターの座をかけた一世一代のギター対決が繰り広げられる。この対決の迫力は凄まじいものであったらしく、リヴォンの自伝でも詳しく描写されているし、当地では今でも伝説として語り継がれているらしい。

負けを認めたロイは、翌日自ら荷物をまとめてカナダを去る。その後ろ姿を見ながら、ロビーは心の中で思う。

There goes an amazing talent that needs to find a home...
落ち着き先を必要としている驚嘆すべき才能が、旅立ってゆく…

…吹かしてくれよるなあ。盛り沢山の第5章は、以下のような文章で締めくくられている。

Between sets at the Imperial one night, Rebel and I wandered across the main drag in Grand Bend to a little burger stand for a snack. As we ate, a guy walked up and introduced himself, mentioning that he played piano and sang in a band that had opened for us a while back called the Rockin Revols. I remembered him-he'd sung a terrific version of Bobby "Blue" Bland's song "Little Boy Blue." Rebel made some crack about this guy's "schnoz," his long, pointed nose, but rather than take offense, the guy laughed. "Yeah, that's why they call me Beak," he replied. "My name is Richard Manuel."
インペリアルホテルでの公演の合間のある夜、(ベーシストの)レベルと私は、グランド·ベンドの目抜き通りをぶらついて、とあるバーガースタンドで軽食をとっていた。そこへ一人の男が歩いてきて、自分は少し前にホークスの前座をつとめた「ロッキン·リボルズ」というバンドでピアノとボーカルをやっている者だと自己紹介した。私は彼のことを覚えていた。ボビー「ブルー」ブランドの「リトル·ボーイ·ブルー」の、素晴らしいバージョンを歌っていた男だ。レベルはその男の「シュノッズ(鼻を意味する俗語)」、長くとんがった鼻を、どちらかと言えば気分を害したような調子で、からかった。「そうっす。だからみんなおれのこと『ビーク(くちばし)』って呼ぶんす」。彼は答えた。「おれ、リチャード·マニュエルっす」。

I shook his hand, but Rebel stood behind him making mocking gestures like he knew something I didn't. Then I got it: Richard "Beak" Manuel was drunk-a laughing, fun-loving sort of drunk, but drunk nonetheless. Richard's condition had puzzled me at first since nobody in the Hawks drank. We could hear Ronnie taking the stage, so we had to head back over.
私は彼と握手したが、レベルは彼の背後に立って、私の知らない彼氏についての何かを知っているかのように、アゴをしゃくるジェスチャーをしていた。それで私は分かったのだが、リチャード「ビーク」マニュエルは、酔っ払っていたのだ。よく笑い、よく遊ぶタイプの酔っ払い。しかしいずれにしても酔っ払いは酔っ払いだ。ホークスには飲む人間が一人もいないので、私は最初、リチャードの状態に混乱させられてしまった。ロニーがステージの準備をしているのが聞こえたので、我々は戻らねばならなくなった。

"I'm not old enough to get in the club," Richard called to us.
「おれ、まだ、クラブに入っていい年じゃねえんすよ」。リチャードが我々に声をかけた。

"You're not old enough to be loaded either," replied Rebel.
「おれたちにくっついて入れる年でもねえだろ」とレベルが応えた。

Looking back at Richard as we walked toward the club, I thought, I hope this guy doesn't have a problem. Maybe it's just one of those nights...
クラブに向かって歩きつつ、リチャードのことを振り返りながら、私は思った。「あいつ、何ともなけりゃいいんだけどな。ひょっとするとそのうち…」