華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Running To Stand Still もしくは あらら らーら ででい (1987. U2)


Running To Stand Still

Running To Stand Still

英語原詞はこちら


And so she woke up
Woke up from where she was
Lying still
Said I gotta do something
About where we're going

彼女は起き上がった。
自分がずっと横になっていた場所から。
これからの私たちのために
やらなくちゃいけないことが
あるからと言って。


Step on a steam train
Step out of the driving rain, maybe
Run from the darkness in the night
Singing ha, ah la la la de day
Ah da da da de day
Ah la la de day

蒸気機関車に飛び乗って
横殴りの雨から抜け出して
たぶん
夜の暗さから逃げ出そうとした
のだと思う。
あらら らーら ででい
あ だ だ だーだでい
あらら で でい と歌いながら。


Sweet the sin
Bitter than taste in my mouth
I see seven towers
But I only see one way out

罪の味は甘く
そして舌の上に感じるより
もっと苦い。
「七つの塔」(セブンタワーズ)が見えるけど
そこから出て行く道は
一本しか私には見えない。


You got to cry without weeping
Talk without speaking
Scream without raising your voice

あなたは
しゃくりあげることもせずに泣き出し
口を動かすこともせずに語り
声を張り上げることもせずに
叫び出すことになるのだ。


You know I took the poison
From the poison stream
Then I floated out of here
Singing ha la la la de day
Ha la la la de day
Ha la la de day

ねえ私は
毒の流れる小川から
毒を体に入れてしまったらしい。
それでぷかりぷかりと
この場所を離れてしまった。
あらら らーら ででい
あ だ だ だーだでい
あらら で でい と歌いながら。


She runs through the streets
With eyes painted red
Under a black belly of cloud in the rain
In through a doorway she brings me
White gold and pearls stolen from the sea
She is raging
She is raging
And the storm blows up in her eyes
She will

塗りたくったように真っ赤な目をして
彼女は通りをいくつも駆け抜け
ブラックベリーみたいな雲の下を
雨の中をくぐり
玄関を抜けて私に
海から盗みとったホワイトゴールドと
真珠を持ってきてくれる。
荒れてゆく彼女
荒れてゆく彼女
そして嵐が
その両目を吹き飛ばしてしまう。
彼女は


Suffer the needle chill
She's running to stand
Still

ひんやりした針に
飢え渇くことになるのだろう。
どこにも行かずに
そこにじっとしているために
彼女は走り続けている。

=翻訳をめぐって=

この歌は以前に取りあげた「Bad」と同じく、当時80年代のアイルランドで貧しい若者の間にヘロインが蔓延していた状況を背景にして生まれた曲であるのだそうで、ベーシストのアダム·クレイトンによるならば「BadパートⅡ」にあたる曲として位置づけられているらしい。言われてみれば、この歌を聴きながら「This desperation, Separation, Condemnation, Revelation...」という「Bad」の歌詞を口ずさんでみると二曲が完全に「シンクロ」していることに気づくのだけど、それは必ずしも偶然ではなく、割と意識した上でやられていることなのかもしれない。



歌詞中に出てくる「seven towers (七つの塔)」というのは、ダブリンのバリミュン地区に21世紀初頭まで建っていた有名な高層団地(上写真)の呼び名だったのだそうで、そこに住んでいたジャンキーの夫婦が生活苦とクスリ代の捻出のため、ダブリンとアムステルダムを往復するヘロインの運び屋に身をやつした、という話をボノが人から聞いたかニュースで読んだかしたことが、この歌詞の下敷きになっているらしい。したがってこの歌詞はそうした「ストーリー」にもとづいて書かれているということになるのだろうが、必ずしもその話にとらわれる必要も、ないのではないかと思う。

この歌詞には少なくとも二人の登場人物が出てくるが、片方の「she」が女性であることだけは明記されているものの、もう片方の「I」については性別もパーソナリティも何も明らかにされていない。そしてその「she」が主語になっている部分と「I」が主語になっている部分とが、歌詞の中では極めて複雑に錯綜しており、場合によっては全部がその「she」という言葉で呼ばれている人の一人語りであるとして解釈できる余地も、ないではないような感じがする。なので試訳に際してはそのあたりを日本語表現においても「ちゃんと」曖昧な形で残しておけるように、気を使わねばならなかった。


There were two birds

「あらららーらででい」という印象的なフレーズに関しては、特に解説してくれているサイトは見つけることができなかったのだけど、それと全く同じコーラスの出てくる歌が「マザーグース」の中に存在していたことを、偶然読んでいた本から知る機会があった。おそらくイギリスやアイルランドで育った人たちには、子どもの頃から耳にくっついている類の一節なのだと思う。

There were two birds sitting on a stone,
Fa, la, la, la, lal, de.
One flew away, and then there was one,
Fa, la, la, la, lal, de.
The other flew after, and then there was none,
Fa, la, la, la, lal, de.
And so the poor stone was left all alone,
Fa, la, la, la, lal, de!

二わのことりが いしにとまって
ファ ラ ラ ラ ラル ドゥ
一わがとびさり 一わがのこり
ファ ラ ラ ラ ラル ドゥ
も一わおいかけ 一わもいない
ファ ラ ラ ラ ラル ドゥ
あわれないしは ひとりぼっち
ファ ラ ラ ラ ラル ドゥ

ー谷川俊太郎訳

…読んでみると確かに、「出口の見えない生活」からの脱出口を求めて売人の仕事に手を出したか、あるいはふらふらさまよい出るかしてしまった歌の中の二人の登場人物の姿と、重なってくる感じを覚えないでもない気がする。



「ブラックベリー」というベリーをどんなのか私は知らなかったので画像検索してみたらこんなのだったから、何だ桑の実のことかよと思ったけど、よく読んでみると違う種類のそれであるらしい。(…どうもいけないな。わざと読みにくい文章を書くことが最近何だか趣味みたいになりつつある)。いずれにしてもこんな感じの「雲」が頭の上に立ち込めていたなら、それはものすごく禍々しい印象を受けることだろうと思う。

というわけでまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1987.3.9.1987
Key: D