華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Broken Arrows もしくは一些断箭 (2015. Avicii)


Broken Arrows

Broken Arrows

英語原詞はこちら


You stripped your love down to the wire
Fire shy and cold alone outside
You stripped it right down to the wire
But I see you behind those tired eyes

あなたは自分の愛を
最後の最後まで使い果たしてしまった。
外の世界は火のように恥ずかしく
氷のように孤独だ。
あなたは最後の最後まで
使い果たしてしまった。
けれどもその疲れた両眼の奥には
ちゃんとあなたが
あなたのままでいることが
わたしには見えている。


Now as you wade through shadows that live in your heart
You'll find the light that leads home
Cause I see you for you and your beautiful scars
So take my hand, don't let go

自分の心にうごめく影を
ざぶざぶとかきわけて進むあなたは
自分を本当にいるべき場所へと導く光を
必ず見つけ出すことができる。
だってわたしが見ているのだから。
あなたのために。
あなたの美しい傷痕のために。
だからわたしの手をとって
離さないでほしい。


Cause it's not too late, it's not too late
I, I see the hope in your heart
And sometimes you lose and sometimes you're shooting
Broken arrows in the dark
But I, I see the hope in your heart

まだ手遅れではないのだから。
まだ手遅れではない。
わたしは
わたしには
あなたの心の中にある希望の姿が
ちゃんと見えている。
ある時にはあなたは敗れ
またある時には
闇に向かって折れた矢を放っている。
それでもわたしには
あなたの心の中にある希望の姿が
ちゃんと見えている。


I've seen the darkness in the light
The kind of blue that leaves you lost and blind
The only thing that's black and white
Is that you don't have to walk alone this time

闇の中に私は
光の姿をとらえてきた。
あなたを道に迷わせ
そしてあなたから視界から奪ってしまう
ある種のブルーな色合いも。
黒か白かで答えを出してしまえることが
ひとつだけあるとするならば
今のあなたはひとりで歩こうとしては
いけないということだ。


We have to tear down walls that live in your heart
To find someone you call home
Now you see me for me and my beautiful scars
So take my hand, don't let go

あなたの心の中に巣食う壁をわたしたちは
打ち破ってやらなくてはならない。
あなたを本当にいるべき場所へと
導いてくれようとしている誰かの姿を
確かめるために。
あなたはわたしのことを見てくれている。
わたしのために。
わたしの美しい傷痕のために。
だからわたしの手をとって
離さないでほしい。


Cause it's not too late, it's not too late
I, I see the hope in your heart
And sometimes you lose and sometimes you're shooting
Broken arrows in the dark
But I, I see the hope in your heart

まだ手遅れではないのだから。
まだ手遅れではない。
わたしは
わたしには
あなたの心の中にある希望の姿が
ちゃんと見えている。
ある時にはあなたは敗れ
またある時には
闇に向かって折れた矢を放っている。
それでもわたしには
あなたの心の中にある希望の姿が
ちゃんと見えている。


It's not too late, it's not too late
I see the hope in your heart
Sometimes losing, sometimes shooting
Broken arrows in the dark

まだ手遅れではない。
まだ手遅れではない。
わたしには
あなたの心の中にある希望の姿が
ちゃんと見えている。
私もやはりある時には敗れ
そしてまたある時には放っているのだ。
闇に向かって折れた矢を。




「blind」という言葉は「視覚障害者」に対する差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しました。

=翻訳をめぐって=

前曲の「For a Better Day」と同様、この曲の翻訳の仕方もサイトによってかなりまちまちだったので、自分なりの解釈を蛇足として付け加えておきたい。一番上に貼りつけたこの曲のPVは、1967年にアメリカの陸上選手が「背面跳び」という新しい走り高跳びの跳躍法を生み出したときの実話にもとづいて作られたものであるらしく、このことからしてもこの歌は、基本的には挫折に負けずに頑張っている人たちへの「応援歌」「激励の歌」として作られた歌であると言っていいと思う。

英詞の中に「I」「you」というふたつの人称代名詞が登場する場合、「I」とは誰のことで「you」とはどんな人なのか、ということをまず最初に考えるのが、このブログを始めて以来、私の習い性のようになっている。それによって訳詞の日本語は丸っきり違ったものになってしまうからである。この歌の場合、歌っているのが男性であるということもあり、「僕」から「君」に向けた歌として翻訳するやり方がまず思い浮かぶが、しかし「誰から誰」に向けた応援歌なのかということを考えた場合、「I」や「you」の「性別」を規定してしまうことは、ここでは意味を持たない。さらにPVを見るなら「子どもから親へ」というベクトルもここではありうるわけであり、さらにありそうな幅として「自分から自分に向けた応援歌」であるという可能性もある。どれかひとつに偏った訳し方をしてしまうと、その分だけ、日本語を通してこの歌に触れようとする人のイメージの幅を狭めてしまうことになる。そんなわけで前曲同様、この歌も「わたし」から「あなた」へという抽象的な言葉で翻訳した方がふさわしいだろうという結論に落ち着いた。「I」と「you」との具体的な関係については、それこそ聞く人の一人一人が自分自身を取り巻く現状と重ね合わせて、自由に思い描けばいいことなのではないかと思う。

You stripped your love down to the wire

この一行目の訳し方からして他のサイトを見るとかなりまちまちなのだけれど、とりあえず後半の「down to the wire」というフレーズから話を始めると、これは「最後の瞬間まで可能な限り何かをやりぬく」ということを表現したい場合に使われる英語の形容詞なのだという。なぜ「down to the wire(ワイヤーのところまで)」なのかというと、19世紀に競馬の勝敗を決めるのに初めて写真撮影が導入された際、判定がしやすいようにゴールラインの上にワイヤーを張ったことが語源になっているのだとのこと。えー、ゴールラインの上にワイヤーみたいなもんが張ったあったら首ひっかけて馬、死ぬやん、と私は思ったのだったが、心配しなくても馬の身長より高いところにワイヤーは張ってあったらしい。私と同じように心配になる人が出てきてもいけないので、付記しておく。



つまり「You stripped your love down to the wire」は、「あなたはあなたの愛を最後の最後までstripした」という意味になる。この「strip」の訳し方で他のサイトの人たちもいろいろ苦労しているみたいなのだが、とりあえず単語としての意味は「脱ぐ/裸にする/奪う/はぎとる/つぶす」等々であり、イメージとしては「you」が自分の体から「愛」を一枚一枚、それ以上剥がせないところまで剥ぎとってしまった、みたいなことが歌われているのだと思う。「愛」と「カネ」とを同一視するのは不謹慎だが、何となくバクチに負け続けている人がフンドシ一枚になって最後の勝負に挑んでいるような情景と重なるものがある。「賭け金」や「持ち玉」と同様、「愛」というのもまた「有限」なもので、「返ってくるもの」が得られない限りは失われてしまう他ないものなのだ、という作詞者の「愛」観がうかがえる。この辺が、後半部分の「闇に向かって放たれる折れた矢」というメタファーにつながっているのだと思う。

Fire shy and cold alone outside

「shy」と「alone」の部分が名詞だったならこのフレーズは「フツーの英文」なのだが、「shy」も「alone」も形容詞である。英語話者が聴いた場合にも「変な違和感」を与えるような言葉遣いが、あえて選択されているのだと思う。で、意味はというと、「外の世界は火のように恥ずかしく氷のように孤独だ」ととりあえず私は訳したのだけど、あんまり自信はない。他のサイトではこんな訳し方はされていない。しかし他のサイトのどの訳し方を見ても私自身はしっくり来る感じがしなかったので、自分にとって一番「自然」に感じられる訳し方を選択した。こういう点はネイティブの人が一言コメントを寄せてくださればそれだけで解決することなので、読んでいる方がいらっしゃったらよろしくお願いします。

The kind of blue that leaves you lost

「blue」という英単語に込められた「いろんな意味合い」については、以前にがんばって書いた以下の記事を参照されたし。
nagi1995.hatenablog.com

And sometimes you lose and sometimes you're shooting
Broken arrows in the dark

英語において「負ける」と「失う」はどちらも同じ「lose」なので、この「lose」は「失う」と訳してもいいと思う。「you」はある時は負けもしくは失い、またある時は「闇に向かって折れた矢を放って」いる。上述のごとく「折れた矢」は「愛」のメタファーなのかもしれないが、折れた矢では刺さらないし、そもそも飛ばない。ぐるんぐるんして落ちてしまう。「勝ったり負けたり」どころですらなく、「向こうが勝ったりこっちが負けたり」的なドツボの中に「you」はハマってしまっているわけで、かっこいい曲調に惑わされがちになるがずいぶん惨めな状態が歌われているものだと思う。PVとの関連で考えるなら「折れた矢」は「積み重ねた失敗の山」のメタファーでもあるかもしれない。いつか何かの肥やしになればいいのだが。

nagi1995.hatenablog.com
バッファロー·スプリングスフィールドも「Broken Arrow」という歌を歌っているのだけれど、この歌の歌詞は「折れた矢」がアメリカ先住民の間で「戦いを終わらせるための象徴」として使われていた、という歴史を踏まえて書かれている。(そのことの上で私がこの歌に対して批判を持っていることは記事の中に書いた通り)。こちらの「Broken Arrow(s)」を書いた人もそのことを頭に入れていたのだろうかと考えてみると、ケンカ別れした相手のもとに必死で「折れた矢」を飛ばして仲直りを求めている主人公の姿、みたいなのが思い浮かび、何だかコミカルで面白い。しかし折れてはいても矢は矢なのだから、当たると痛い。飛ばすと危ない。つまり主人公は相手に対して「仲直りがしたい」と言いながら同時に相手のことを「攻撃」していることになるわけで、何がしたいのかわからないけど、そのわからないところが何だかリアルで、ますます面白い。

どないやねん。

ではまたいずれ。