華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Murder Most Foul もしくは それはそれは邪悪な殺人 (2020. Bob Dylan)



ファンのみなさんとフォロアーのみなさんに挨拶を送ります。みなさんからの長年にわたるご支援と、変わらぬご支持に感謝を込めて。
この曲は私たちがいくらか前に録音して、発表しないままでいた曲です。面白いと思って頂けるのではないかと思います。
お大事に。油断されないように。そして神があなたと共にありますように。

ボブ·ディラン

「新型コロナウィルス」の脅威が全世界を席巻する2020年3月27日の真夜中、ツイッターでの上記のメッセージと共に、ボブ·ディランが8年ぶりの新曲を発表した。16分55秒もある曲で、58年にわたる彼のキャリアの中でも、記録されている限りでは最長の作品だという。

私はこのブログではずっとディランの悪口ばかり書いてきたし、彼氏のことは基本的にもうずっと以前から、庶民の世界と隔絶されたマリブの高級住宅地に住まう一人の保守的な老人にしか見えていない。けれどもそんな風に書いてきたのは、それだけ私という人間の人生においてディランという人の存在が大きな位置を占めてきたからなわけだし、彼氏から受けてきた影響の中で私が生き続けていることにも変わりはない。コドモがオトナになる過程で、それまで自分の庇護者でありかつ支配者でもあったオトナの誰かと対決しなければならない局面を迎えることは必然だ。そんな意味において、自分の両親とちょうど同年代にあたるディランという人は私にとって一番「オトナらしいオトナ」としての象徴みたいな位置を占めてきたミュージシャンだったし、その彼氏に対していつまで経っても突っ張らかした態度しかとることができずにいるのは、彼氏の前ではいまだに私という人間がコドモのままであり続けていることのあらわれなのだろうな、とも率直に言って思う。

Murder Most Foul」という16分55秒の新曲は、新型ウィルスの蔓延という「古くて新しい危機」に直面している人間世界を前に、そんなディランという人が「今どうしても言葉にして残しておきたい思い」が込められた歌なのだろうな、という印象を、一回通して聞いてみて私は受けた。「遺言」というわけでもないのだろうけれど。

この歌には無数の歌の名前や映画の名前、実際に起こった事件や具体的な人名が散りばめられており、それらはディランと同時代を生きてきた英語圏の人たちにとっては何の説明もいらないことになっているのだろうし、そうした名詞の羅列だけで、それこそ「過去が走馬灯のように甦るイメージ」を、その「特別な時代」を生きてきた人たちは受け取るのに違いない。けれどもその人たちの子どもの世代として生まれてきた私(たち)にとっては、そうしたイメージは物心ついた時から既に歴史の本やNHKスペシャルの映像の中に追いかけるしかない「伝説の世界」の表象になっていたわけだし、私たち以降の世代の人たちにとってはもはや「歴史ロマン」の領域に属するイメージであることだろう。あと20年もしないうちにディランやその世代の人たちは本当に「いなく」なるわけで、そうなった時にはこの歌も文字通り「歴史」の一部としてしか、人間世界に引き継がれる余地はなくなることになる。そうした「歴史の記念碑」にすることをあらかじめ見越して書かれた作品であることは、間違いないと思う。

その意味では、ボブ·ディランが作った「アメリカン·パイ」みたいな作品が、この歌なのだろうな。という印象を私は受けた。後から生まれた人間があの作品世界を「追体験」するのはそれはそれは大変な作業だったわけだし、この作品世界においてはもっともっと大変な作業が必要とされるに違いない。厖大な「注釈」がついていなければ後から生まれた人間はとてもついて行けないし、必要とされる注釈の量はこれから時代が下るごとに増えていく一方であることだろう。そしてそういう「注釈」をつけることのできる立場に、私はない。できればその注釈はこの歌の時代を直接生きた人たちに、今のうちにつけておいてもらいたい。そして私や私たちには、その世代の人から学んでおかなければならないことが今でも沢山あるのである。

いずれ、この歌をどのように聞くかということだけをめぐっても、ネット世界には厖大な情報量が蓄積されてゆくことだろうし、それと共にこの歌の解釈や評価も、ある程度は固定化されてゆくことだろうと思う。発表された翌日に一回聞いただけで翻訳したのでは誤訳やメッセージの見落としも山のように出てくることだろうが、とりあえずはその第一印象の覚え書きということで、以下の試訳は、作ってみた。なお、長い歌なので、翻訳の仕方をめぐるコメントはいつものように記事の末尾に書くのではなく、各ヴァースの翻訳を終えるごとにその都度書いてゆく形をとることにしたい。


Murder Most Foul

Murder Most Foul

英語原詞はこちら


It was a dark day in Dallas, November '63
A day that will live on in infamy
President Kennedy was a-ridin' high
Good day to be livin' and a good day to die
Being led to the slaughter like a sacrificial lamb
He said, "Wait a minute, boys, you know who I am?"
"Of course we do, we know who you are!"
Then they blew off his head while he was still in the car
Shot down like a dog in broad daylight
Was a matter of timing and the timing was right
You got unpaid debts, we've come to collect
We're gonna kill you with hatred, without any respect
We'll mock you and shock you and we'll put it in your face
We've already got someone here to take your place
The day they blew out the brains of the king
Thousands were watching, no one saw a thing
It happened so quickly, so quick, by surprise
Right there in front of everyone's eyes
Greatest magic trick ever under the sun
Perfectly executed, skillfully done
Wolfman, oh wolfman, oh wolfman howl
Rub-a-dub-dub, it's a murder most foul

ダラスのある日のことだった
1963年11月の暗い日
汚辱の日として今でも語り継がれている日
ケネディ大統領は人生の絶頂にいた
生きているのにはこの上ない日
そして死ぬのにもこの上ない日
いけにえにされる仔羊のように
殺される場所に導かれてゆく道々
ケネディ大統領は言った
「待ってくれおまえたち
わたしが誰だかわかっているのか?」
「もちろん知ってますよ
あなたが誰だか!」
そう言うとかれらは
まだクルマの中にいたケネディ大統領の
頭を吹っ飛ばした
白日の下で犬のように撃ち殺した
それはタイミングの問題で
そしてタイミングは合っていた
あなたには払っていないツケがあって
我々はそれを回収に来たのですよ
我々は憎しみを持ってあなたを殺しますよ
一片の敬意もなく殺しますよ
あなたにモック(あざけり)を与え
ショックを与えそして
そいつをあなたの顔面にぶち込みますよ
あなたの代わりになる人間ならもう
我々はちゃんと準備しているのですよ
王がその脳髄を吹き飛ばされた日
何千人もが見つめていて
ものが見えていた人間は
ひとりもいなかった
それはあまりに急なあまりに突然の
不意打ちだった
まさにそこで
みんなの目の前で
およそ太陽の下ではこれまでに
なされたことのなかったような
最大の奇術のトリックが
完璧かつ巧みに遂行された。
ウルフマンが
ああオオカミ男のウルフマンが吠える
ラブ·ア·ダブ·ダブ
それはそれは邪悪な殺人

=Verse1=

  • Murder Most Foul…このタイトルはシェイクスピアの悲劇「ハムレット」で、ハムレットの父親だったデンマーク王の亡霊が、自分がいかに卑劣に殺されたかを息子に語る場面で出てくる台詞から取られているとのこと。アガサ·クリスティが「マープルおばさんシリーズ」で同名の推理小説を書いており、それはそれで映画になっているらしい。
  • 歌の中ではケネディが殺される直前に殺人者たちと何らかの会話を交わしたことになっているが、もちろん直接にはそんな史実はない。何かの比喩表現になっているのだろう。あるいは、ケネディを殺したのは政権内のケネディと近しい人間たちだったという、ディラン自身の見方が反映されているのかもしれない。
  • Shot down like a dog…「犬を殺すように撃ち殺した」という意味なのか「犬の所行のように撃ち殺した」という意味なのかが、実はこの構文では私にはよく分からない。
  • The day they blew out the brains of the king…法のもとでの平等が保障された人民の直接選挙で選ばれているアメリカ合州国の大統領を「king(王)」という言葉で形容できるあたりに、ディランという人の目には大統領というものがそういう風に見えているのだということや、人間の核の部分では彼氏が民主主義の信奉者ではないこと、すべての人々が差別のない社会で共に生きることのできる未来を希求する気持ちをカケラも持ち合わせていない人間であることが、示されていると私は感じる。
  • Wolfman, oh wolfman…ここに出てくる「ウルフマン(オオカミ男)」は、20世紀後半に全米で名を知られていたウルフマン·ジャックというDJの人のことを指しているということが、海外サイトには(早くも)書かれていた。番組の冒頭で「ウオーッ!」と吠えるのが、名物になっていたらしい。

  • Rub-a-dub-dub…これは、マザーグースの一節である。調べてみたら子どもの頃に実家にあった絵本の表紙の元ネタになっていた歌だったもので、へえーと思った。


Rub-a-dub-dub
Three men in a tub,
And How do you think they got there?
The butcher, the baker,
The candlestick-maker,
They all jumped out of a rotten potato,
'Twas enough to make a fish state

ジャボン チャポ チャポ チャッポンポン
たらいの おふねの 三にんは
にくやに パンや ろうそくや
くさった じゃがいも さようなら
さかなも パチクリ めを みはる

(石濱恒夫訳)

…つづいて二番。

Hush, little children, you'll understand
The Beatles are comin', they're gonna hold your hand
Slide down the banister, go get your coat
Ferry 'cross the Mersey and go for the throat
There's three bums comin' all dressed in rags
Pick up the pieces and lower the flags
I'm goin' to Woodstock, it's the Aquarian Age
Then I'll go to Altamont and sit near the stage
Put your head out the window, let the good times roll
There's a party going on behind the Grassy Knoll
Stack up the bricks, pour the cement
Don't say Dallas don't love you, Mr. President
Put your foot in the tank and then step on the gas
Try to make it to the triple underpass
Blackface singer, whiteface clown
Better not show your faces after the sun goes down
Up in the red light district, they've got cop on the beat
Living in a nightmare on Elm Street
When you're down on Deep Ellum, put your money in your shoe
Don't ask what your country can do for you
Cash on the ballot, money to burn
Dealey Plaza, make a left-hand turn
I'm going down to the crossroads, gonna flag a ride
The place where faith, hope, and charity lie
Shoot him while he runs, boy, shoot him while you can
See if you can shoot the invisible man
Goodbye, Charlie! Goodbye, Uncle Sam!
Frankly, Miss Scarlett, I don't give a damn
What is the truth, and where did it go?
Ask Oswald and Ruby, they oughta know
"Shut your mouth," said a wise old owl
Business is business, and it's a murder most foul

おやすみ小さな子どもたち
きっと分かる日が訪れる
やってくるのはビートルズだ
きみたちの手を「抱きしめたい」ってね
手すりを滑って下に降り
自分のコートを取るといい
「マージー川の連絡船」だ
相手の喉笛に食らいつけ
三人のbumsがボロをまとって
やって来るのが見える
かけらを拾い集め
旗は全部下ろせ
わたしはウッドストックに行くのだ
「水瓶座の時代」が来ている
それからオルタモントに行って
ステージの前に座るのだ
窓から頭を出してみろ
「レット·ザ·グッド·タイムズ·ロール」
すればいい
グラッシー·ノールの陰では
パーティーが進行中
レンガを積んで
セメントを流しこめ
ダラスは自分を愛していないだなんて
言わないでくださいな大統領さん
タンクの中に足を突っ込んで
空気の階段を上るように
超特急でやってくれ
そいつをうまくやるために
三重高架のところへ
黒い顔のシンガー
白い顔のピエロ
太陽が沈んだ後には
その顔は見せないほうがいい
赤線地区では警官が巡回中だ
エルム街の悪夢の中での生活
ディープ·エラムに行く時は
カネは靴の中にしまっておくことだ
自分の国が自分のために
何をしてくれるのかなんて
言うのはやめて頂きたい
投票につきまとう現金
燃える炎に変わるカネ
ディーリー·プラザだ
左にハンドルを切れ
自分は十字路ごとに
フラグ(旗)を立ててゆく
信念と希望と慈善の精神とが
横たわる場所だ
あいつが走ってる間に撃て
自分にできる間にあいつを撃て
目に見えない人間を撃てるものかどうか
しっかり確かめろ
さよならチャーリー
さよならアンクル·サム
ぶっちゃけた話スカーレット嬢
わたしはどうでもいいと思っているのだ
何が真実で
それがどうなったというのか
オズワルドとルビーに聞いてみるといい
きっと知ってることだろう
「口を閉じなさい」と
老いた賢いフクロウが言いました
ビジネスはビジネスそして
それはそれは邪悪な殺人

=Verse2=

  • The Beatles are comin', they're gonna hold your hand…ビートルズが「エド·サリバン·ショー」でアメリカ初上陸を果たすのは、ケネディ暗殺の3ヶ月後にあたる1964年2月だった。
  • Ferry 'cross the Mersey and go for the throat…前半部分はジェリー&ザ·ペイスメイカーズというイギリスのバンドの曲名。「マージー」はビートルズを育んだリバプールを流れる川の名前で、この曲名が出て来ること自体が「マージー·ビート」へのひとつのオマージュになっているのだろうが、後半の「喉に食らいつけ」は、よくわからない。そういう歌詞が出てくるのだろうか。
  • There's three bums comin' all dressed in rags…「bums」は路上生活を送っている人々に対する差別表現。ここでは原文をそのまま転載した。マザーグースに全く同様のフレーズの出て来る歌があるのだが、海外サイトによるならばこの歌詞からアメリカ人が連想するのは、ケネディ暗殺の直後に事件の関係者と思われる写真としていくつもの新聞に掲載されたにも関わらず、いつの間にか「なかったこと」にされてしまい、それが誰だったのかもよく分からなくなってしまった、「スリー·トランプズ」と呼ばれる三人の男性の姿であるらしい。

  • I'm goin' to Woodstock, it's the Aquarian Age…ウッドストック·フェスティバルが開かれたのは、当時のディランぐらいの年齢の人にとってみればケネディ暗殺からだいぶ時間がたった後にあたる1969年のこと。「水瓶座の時代」というのは当時のヒッピー文化の中でしきりと言われた「占星術的な意味での変革の時代の到来を示すキーワード」だったらしいのだが、そういうのは信じないのでよく分からない。それによると何でも、人間の歴史の「前史」にあたるキリスト誕生前後からの約二千年間、地球は「魚座の時代」の時空軸を漂っていたのだが、それが20世紀を前後して「水瓶座の時代」に入ったのであると。それがまた2160年間続くので21世紀の現在も「水瓶座の時代」は継続していることになるらしいのだが、だからといってどうすればいいのかやっぱり私には分からない。
  • Then I'll go to Altamont and sit near the stage…「オルタモントの悲劇」をめぐっては、前にいろいろ書きました。

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  • Put your head out the window, let the good times roll…後半部分はルイ·ジョーダンの曲名

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  • There's a party going on behind the Grassy Knoll…「グラッシー·ノール」とはケネディ暗殺現場の近くにあった小さな丘の名前で、暗殺者はそこに潜んでいたのではないかということが当初から言われていたとのこと。
  • Don't say Dallas don't love you, Mr. President…当時のテキサス州知事の夫人だった人がダラスにケネディを迎えた時の言葉だったとのことで、生前の彼氏が最後に聞いた言葉だったと言われている。
  • Put your foot in the tank and then step on the gas…結構いろいろなレトリックが使われている感じがして、訳しにくい箇所だった。前半は「あなたの足をタンクの中に入れろ」だが、「タンク」というのが「ガソリンタンク」のことなのか「ある種の水槽」のことなのか「戦車」のことなのかということからして、私には判断できる材料がない。さらに「in the tank」は「最悪の状態」を意味する慣用句でもあるという。「step on the gas」はアメリカで「運転手さん、飛ばして!」と言う時に使われる言い回しであるらしいのだが、直訳すると「気体の上に乗りなさい」になる。いずれにしても言えるのは、このフレーズの上に漂っているのは「不吉なイメージ」だということである。
  • triple underpass…暗殺現場の付近に、そういう「三重高架」があったらしい。
  • red light district…「赤線」とは公権力によって売買春が公認されていた地区のこと。こういう言葉を客観的に口にできるタイプの人間と、私は基本的に友だち付き合いをしたいとは思わない。
  • Living in a nightmare on Elm Street…「エルム街の悪夢」は有名なホラー映画だが、ケネディが狙撃された通りの名前も「エルム·ストリート」と言ったのだとのこと。
  • When you're down on Deep Ellum, put your money in your shoe…上記のエルム街とはまた別の街の名前らしいのだが、こういう風にひとつの地名を丸ごと「さげすみの対象」として描き出す言葉の使い方には日本の部落差別と完璧に通底するものを私は感じるので、「ああ、こういうことを言う人なのだな」という感想しか私には湧いてこない。もしもこの部分を何のコメントもなしに日本語に翻訳して「言いふらす」ことに加担している人を今後見かけることになったなら、「この人はそんな風にして平気で部落差別をやれる感性の持ち主なのだな」という判断を私はそこから下すことになるだろう。何にせよ「犯人はそこに紛れていたに違いない」的なことを言っている歌詞なのだろうとは思うが。
  • Don't ask what your country can do for you…ケネディが選挙演説の中で使った有名な言葉。「自分が国家のために何をできるかを考えてほしい」と続く。
  • money to burn…「燃やされるカネ」とも訳せるが、「戦争でベトナムその他の地を焼き払うためのカネ」みたいな意味も言外に含まれている気がする。
  • make a left-hand turn…ケネディが殺されたのは彼の掲げた政策が「左寄り」だったからということも言われていたりするわけだが、そろそろ注釈が過剰になってきた気もする。まだ半分も終わっていないのに。
  • gonna flag a ride…「旗を立てる」には「合図を出す」「人をかつぐ」などの意味もあるらしい。
  • See if you can shoot the invisible man…「Shoot him while he runs」はジュニア·ウォーカー&オールスターズの「Shotgun」という歌に出てくる歌詞だとのこと。「Invisible Man」はラルフ·エリソンという著名な黒人作家の書いた長編小説の名前でもある。
  • Goodbye, Charlie! Goodbye, Uncle Sam! Frankly, Miss Scarlett …「グッバイ、チャーリー」は1964年に公開されたコメディ映画。「アンクル·サム」とはアメリカ合州国を擬人化したキャラクターとして大昔から使われてきたヒゲの白人男性の名前。「スカーレット」といえば「風と共に去りぬ」の主人公の名前が浮かぶ。総じてここでは「古き良きアメリカ」そのものに対する「さよなら」が歌われているように感じる。
  • "Shut your mouth," said a wise old owl …マザーグースと同様のわらべうたの一節らしいのだが、同様のフレーズがアメリカの軍隊では「軍機を漏らさないための標語」として使われていたとのこと。

…続いて三番

Tommy, can you hear me? I'm the Acid Queen
I'm riding in a long, black Lincoln limousine
Ridin' in the backseat next to my wife
Headed straight on in to the afterlife
I'm leaning to the left, I got my head in her lap
Hold on, I've been led into some kind of a trap
Where we ask no quarter, and no quarter do we give
We're right down the street, from the street where you live
They mutilated his body and they took out his brain
What more could they do? They piled on the pain
But his soul was not there where it was supposed to be at
For the last fifty years they've been searchin' for that
Freedom, oh freedom, freedom over me
I hate to tell you, mister, but only dead men are free
Send me some lovin', then tell me no lie
Throw the gun in the gutter and walk on by
Wake up, little Susie, let's go for a drive
Cross the Trinity River, let's keep hope alive
Turn the radio on, don't touch the dials
Parkland hospital, only six more miles
You got me dizzy, Miss Lizzy, you filled me with lead
That magic bullet of yours has gone to my head
I'm just a patsy like Patsy Cline
Never shot anyone from in front or behind
I've blood in my eye, got blood in my ear
I'm never gonna make it to the new frontier
Zapruder's film I seen night before
Seen it thirty-three times, maybe more
It's vile and deceitful, it's cruel and it's mean
Ugliest thing that you ever have seen
They killed him once and they killed him twice
Killed him like a human sacrifice
The day that they killed him, someone said to me, "Son
The age of the Antichrist has just only begun"
Air Force One comin' in through the gate
Johnson sworn in at 2:38
Let me know when you decide to throw in the towel
It is what it is, and it's murder most foul

聞こえるかいトミー
アシッド·クイーンだよ
私は車長の長い黒塗りの
リンカーンのリムジンに乗っている
妻の隣の後部座席で
来世の人生に向かって
顔を左に向けて
妻の膝の上に頭をのせている
待ってくれ私は
何かの罠にはめられたのだ
容赦することも
容赦を求めることもできない
そんな状況にはめ込まれた
我々はあなたの暮らす街角から
まっすぐ先の通りにいる
かれらは彼の体を切り刻み
脳を持ち去った
それ以上の何がかれらにできたろう
かれらは大げさに嘆いてみせた
だがかれの魂は
あるべきはずだと思われた場所には
見つからなかったのだ
この50年のあいだ
かれらはそれを探し続けてきた
自由よ 自由よ わたしを包む自由よ
言いたかありませんけど旦那
本当に自由な人間ってのは
死んだ人間だけなんです
愛を届けてください
そして嘘はつかないでください
銃は捨ててギターを手にとって
共に歩もうではありませんか
かわいいスージー目を覚ませ
ドライブに行こうじゃないか
トリニティ川を横切って
希望は死なせちゃいけない
ラジオをつけよう
チューニングはいじるなよ
パークランド病院までは
あとたったの6マイルだ
あんたのせいで目まいがするよ
ミス·リジー
あんたはおれの中を
鉛でいっぱいにしてくれた
あんたの魔法の銃弾が
おれの中を貫通していったんだな。
パッチー·クラインなみに
パッチー(人からカモにされる人)なやつに
なってしまった
前からであろうと後ろからであろうと
人を撃つようなことをしちゃいけないよ
おれの目からは血がにじみ
耳からも血がにじんでる
ニュー·フロンティアになんて
とても行けそうにない
ザプルーダーズ·フィルムなら
前の晩に見た
33回かそれ以上ぐらい見た
むかつくしウソばっかりだし
むごたらしいし
ひどいものだよ
人生であれだけみにくいものを見ることは
まあないだろうね
かれらはあの人を殺し
そしてもう一度殺した
人間を生贄にするみたいに
あの人のことを殺した
かれらがあの人を殺した日
誰かがぼくに言ったんだ
兄ちゃん今まさに
反キリストの時代が始まったんだぜって
エアフォース·ワンがゲートをくぐってきて
ジョンソンが2時38分に誓いを立てた
タオルを投げ込むことに決めたのは
いつのことだったのか
ぼくに教えてくれないか
それは起こった通りのこと
それはそれは邪悪な殺人

=Verse3=

  • Tommy, can you hear me? I'm the Acid Queen…ザ·フーによる1969年のロックオペラ「トミー」が、明らかに出典元になっている。「アシッド·クイーン」というのはその中で確かティナ·ターナーが演じていた、ドラッグカルチャーの人格化のようなキャラクターなのだけど、まさにその世界を地で行くように、この歌はこのあたりから主語がどんどん入れ替わり、誰が誰の目線で歌っているのかも分からないような悪夢幻的なことになってゆく。
  • I'm riding in a long, black Lincoln limousine…アメリカの人の頭にこの歌詞から自然と甦るのは、テレビ中継されたケネディの葬列がリンカーンの墓の前を通り過ぎていった象徴的な場面の記憶であるとのこと。前の行では「私はドラッグ·クイーン」と歌っていたのに、この部分では早くも「私は死んだケネディ」になっている。こういうことが今後、際限なく繰り返されるので、いちいち注釈を入れるのはこれを最後にしておきたい。
  • Freedom, oh freedom, freedom over me…アリーサ·フランクリンがエコーしているのを感じる。

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  • Send me some lovin'…リトル·リチャードの1957年の曲名。
  • Wake up, little Susie, …エヴァリー·ブラザーズの1957年の曲名。
  • dizzy, Miss Lizzy…ビートルズの「ヘルプ!」に収録されている曲名だが、原曲はラリー·ウィリアムズ(1958年) 。
  • Patsy Cline…60年代の有名な女性カントリー歌手
  • I've blood in my eye…90年代にディランが出したカバーアルバム「World Gone Wrong」の中で、似たような名前の曲が取り上げられている。
  • I'm never gonna make it to the new frontier…「我々は今まさにニュー·フロンティアの縁に立っている」というのも、ケネディの選挙演説の有名な一節だったとのこと。
  • Zapruder's film…ケネディが暗殺される場面をホームビデオが偶然に捉えた、有名な映像。私も何度となく見たことがある。
  • Johnson sworn in at 2:38…ケネディのもとで副大統領の地位にあったリンドン·ジョンソンは、暗殺が起こった時ケネディの二台後ろの車に乗っていたらしいのだが、別に狙われはしなかった。ケネディの死亡が確認されるとジョンソンは厳重な護衛のもとでダラス空港に駐機されていた大統領専用機「エアフォース·ワン」の機内に移り、そこでケネディ夫人ジャクリーン氏の立ち会いのもと、ただちに大統領就任の宣誓を行なった。とのこと。

…続いて四番

What's new, pussycat? What'd I say?
I said the soul of a nation been torn away
And it's beginning to go into a slow decay
And that it's thirty-six hours past Judgment Day
Wolfman Jack, he's speaking in tongues
He's going on and on at the top of his lungs
Play me a song, Mr. Wolfman Jack
Play it for me in my long Cadillac
Play me that "Only the Good Die Young"
Take me to the place Tom Dooley was hung
Play "St. James Infirmary" and the Court of King James
If you want to remember, you better write down the names
Play Etta James, too, play "I'd Rather Go Blind"
Play it for the man with the telepathic mind
Play John Lee Hooker, play "Scratch My Back"
Play it for that strip club owner named Jack
Guitar Slim going down slow
Play it for me and for Marilyn Monroe

何かいいことないか仔猫ちゃん
わたしは何と言ったのだっけ
国家の魂は引き裂かれてしまった
そう言ったのだ
そしてそれはゆるやかに
腐敗の道をたどりだしている。
かつ現在はまさに最後の審判の
36時間後にあたっているのだ
ウルフマン·ジャック
彼はでたらめを口走っている
肺を振りしぼらんばかりにして
どこまでもひたすら喋り続ける
ウルフマン·ジャックさん
歌を一曲かけてくれないか
長いキャデラックの中に横たわっている
わたしのために
「Only the Good Die Young」を
かけてくれよ
トム·ドゥーリーが吊るされたところへ
わたしを連れていってくれ
「St. James Infirmary」と
「Court of King James」をかけてくれ
忘れたくないと思うならちゃんと名前を
書きとめてておいたほうがいい
エタ·ジェイムズもかけてくれ
「I'd Rather Go Blind」も聞かせてくれ
テレパシーみたいな心を持った
そんな人間のためにかけてくれ
ジョン·リー·フッカーをかけてくれ
「Scratch My Back」をやってくれ
ジャックという名前の
ストリップクラブのオーナーのために
かけてやってくれ
じんわりと流れる
ギター·スリムの曲
わたしのために
そしてマリリン·モンローのために
かけてやってくれ

=Verse4=

  • ここからどんどん固有名詞が増えてくる。最初の「What's new, pussycat?」がトム·ジョーンズの曲名であることぐらいはメモしておくべきかもしれないが、たちまち追いつかなくなってしまう。ビリージョエルが出てきたりレッドツェッペリンが出てきたりと、曲の世界はどんどん時空を超えて広がっていく。歌詞の中にも出てくるように「忘れたくなければ書きとめておくこと」ぐらいが、リスナーにできる精一杯であるように思う。
  • Play it for that strip club owner named Jack…ジャック·ルビーのこと。この人物の経営するクラブでザ·バンドが演奏することになった際の惨憺たるエピソードが、ロビー·ロバートソンの自伝に書かれていたっけ。

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  • Play it for me and for Marilyn Monroe…J.F.ケネディとマリリン·モンローが「できていた」のは、有名な話。だったと聞いている。

…そして最後の五番で繰り広げられる固有名詞のオンパレードについて注釈をつけることは、もはや完全に私の能力を超えている。「アルカトラズのバードマン」というのがケネディ暗殺の前日に獄死した有名な殺人犯の名前であることや、「フーディニ」というのが晩年霊界との交信方法を確立することに人生の全てを注いだ奇術師の名前であること等々は、ディランと同じ時代に同じ世界で生きた人々にとっては「そんな人もいたねえ」といちいち走馬灯のように思い出されることであるのだろうが、後から生まれた私たちにできることはWikipediaで調べるぐらいがせいぜいなわけだし、そんなことをしても本当に「知った」ことには何もならない。本当にこの歌の世界を「追体験」したいと思うなら、まずはここに列挙されているいろんな曲を虚心坦懐に聞いてみることからしか始まらないことだろう。幸いにして、それぐらいのことなら割と簡単にできる時代に我々は住んでいる。というわけで以下の部分に関してはコメントはつけず、直訳だけを掲載しておくことにとどめたい。ではまたいずれ。

Play "Please Don't Let Me Be Misunderstood"
Play it for the First Lady, she ain't feeling any good
Play Don Henley, play Glenn Frey
Take it to the limit and let it go by
Play it for Carl Wilson, too
Looking far, far away down Gower Avenue
Play tragedy, play "Twilight Time"
Take me back to Tulsa to the scene of the crime
Play another one and "Another One Bites the Dust"
Play "The Old Rugged Cross" and "In God We Trust"
Ride the pink horse down that long, lonesome road
Stand there and wait for his head to explode
Play "Mystery Train" for Mr. Mystery
The man who fell down dead like a rootless tree
Play it for the reverend, play it for the pastor
Play it for the dog that got no master
Play Oscar Peterson, play Stan Getz
Play "Blue Sky," play Dickey Betts
Play Art Pepper, Thelonious Monk
Charlie Parker and all that junk
All that junk and "All That Jazz"
Play something for the Birdman of Alcatraz
Play Buster Keaton, play Harold Lloyd
Play Bugsy Siegel, play Pretty Boy Floyd
Play the numbers, play the odds
Play "Cry Me A River" for the Lord of the gods
Play Number nine, play Number six
Play it for Lindsey and Stevie Nicks
Play Nat King Cole, play "Nature Boy"
Play "Down In The Boondocks" for Terry Malloy
Play "It Happened One Night" and "One Night of Sin"
There's twelve million souls that are listening in
Play "Merchant of Venice", play "Merchants of Death"
Play "Stella by Starlight" for Lady Macbeth
Don't worry, Mr. President, help's on the way
Your brothers are comin', there'll be hell to pay
Brothers? What brothers? What's this about hell?
Tell them, "We're waiting, keep coming," we'll get them as well
Love Field is where his plane touched down
But it never did get back up off the ground
Was a hard act to follow, second to none
They killed him on the altar of the rising sun
Play "Misty" for me and "That Old Devil Moon"
Play "Anything Goes" and "Memphis in June"
Play "Lonely At the Top" and "Lonely Are the Brave"
Play it for Houdini spinning around his grave
Play Jelly Roll Morton, play "Lucille"
Play "Deep In a Dream", and play "Driving Wheel"
Play "Moonlight Sonata" in F-sharp
And "A Key to the Highway" for the king on the harp
Play "Marching Through Georgia" and "Dumbarton's Drums"
Play darkness and death will come when it comes
Play "Love Me Or Leave Me" by the great Bud Powell
Play "The Blood-stained Banner", play "Murder Most Foul"

「悲しき願い」をかけてくれ
あのファーストレディのために
あの人の心がやすまることはない
ドン·ヘンリーをかけてくれ
グレン·フライをかけてくれ
「Take it to the limit」を
(ぎりぎりのところまで)
流れゆくままに
カール·ウィルソンのためにも
かけてやってくれ
遠くを見つめて
はるかカリフォルニアの
ガウアー·アヴェニューを
悲劇を演じてみせてくれ
「Twilight Time」をやってくれ
犯罪が行われた場所
オクラホマ州のタルサに
わたしのことを連れ帰ってくれ
何か別なのをやってくれ
「Another One Bites the Dust」も一緒に
「The Old Rugged Cross」と
「In God We Trust」もかけてくれ
ピンクの馬にまたがって
長き孤独の道をゆけ
その場所に立って
その人の頭が
弾け飛ぶのを待つことだ
ミスター·ミステリーのために
「Mystery Train」をかけてくれ
根っこを持たない木のように
倒れて死んでしまった人
尊師さまのために牧師さまのために
かけておくれ
主人を持たない犬のために
かけてやっておくれ
オスカー·ピーターソンをかけてくれ
スタン·ゲッツをかけてくれ
「ブルー·スカイ」をやってくれ
ディッキー·ベッツをかけてくれ
アート·ペッパーをかけてくれ
セロニアス·モンクも
チャーリー·パーカーに
オール·ザット·ジャンク
すなわちガラクタの寄せ集めに
「オール·ザット·ジャズ」
アルカトラズ刑務所のバードマンのために
何かかけてやっておくれ
バスター·キートンをかけてくれ
ハロルド·ロイドをかけてくれ
バグシー·シーゲルを
プリティボーイ·フロイドをかけてくれ
いっぱいかけてくれ
変なのもかけてくれ
「Cry Me A River」を
主のために神々のためにかけてくれ
9番目のやつを
6番目のやつをかけてくれ
リンゼイおよびスティーヴィー·
ニックスのためにかけてくれ
ナット·キング·コールをかけてくれ
「Nature Boy」を
テリー·マロイのために
「Down In The Boondocks」をかけてくれ
「ある夜にそれは起こった」と
「一夜の罪」をかけてくれ
1200万の魂が
耳をすましているんだぜ
「ベニスの商人」をやってくれ
「死の商人」をやってくれ
マクベス夫人のために
「星影のステラ」をやってくれ
元気だしなよ大統領さん
助っ人が向かってるよ
あんたの兄弟がそっちに行くところだよ
地獄みたいに大変なことになるよ
きょうだい?
何のきょうだい?
地獄がどうしたって?
言ってやってくれ
「待ってるからそのまま来い」と
そいつらのことも入れてやろう
あの人の飛行機が着陸した場所は
ラヴ·フィールド
けれどもそれが大地を離れ
戻ってくることは二度となかった
誰にも真似のできない
他の追随を許さないことだった
昇ってくる太陽に捧げるため
かれらはあの人を殺したのだ
わたしのために「Misty」をやっておくれ
「That Old Devil Moon」も
「Anything Goes」に
「Memphis in June」
「Lonely At the Top」も
「Lonely Are the Brave」もかけてくれ
墓穴の中できりきり舞いしている
フーディニのためにかけてやってくれ
ジェリー·ロール·モートンを
「Lucille」をかけてくれ
「Deep In a Dream」を
「Driving Wheel」をかけてくれ
「月光のソナタ」をF#でかけてくれ
そしてハーモニカの上に立つ王のために
「A Key to the Highway」をかけてくれ
「Marching Through Georgia」と
「Dumbarton's Drums」をかけてくれ
闇と死とが
来る時にはやってくる
それをやってくれ
偉大なバド·パウエルの
「Love Me Or Leave Me」をかけてくれ
「血染めの旗」という歌を
「それはそれは邪悪な殺人」という歌を
かけておくれ


=楽曲データ=
Released: 2020.3.27.
Key: C