華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Dandelion もしくは春の歌 (1967. The Rolling Stones)



ストーンズとは絶交中の私ではあるわけだけど、あったかくなってくるたびにこの歌が口をついてしまうというカラダに染みついたサイクルまでは、変えられない。コロナウイルスの猖獗にはいまだ峠を越える気配さえ見当たらないけれど、人気のないところでタンポポがのどかに綿毛を広げているのを見つけたら、つみ取って吹き飛ばすぐらいのことは、やったってかまわないじゃないか。春なんだから。

イギリスからはマリアンヌ·フェイスフルさんが、感染して闘病中だというニュースも入ってきている。ミック·ジャガーもどこかで静かに、祈り続けているのではないかと思う。

ちなみにタンポポのことを「ダンデライオン」と言うのは、黄色い花の外観がライオンに似ていたり、ミスタードーナツのポンデリングに似ていたりすることからついた名前なのだろう、と何となく思い込んでいたのだけれど、調べてみたら花ではなく「葉の形」が「ライオンの歯」に似ているからなのですってね。フランス語の「ダン(歯)(の)リヨン(ライオン)」から来ている言葉だったのだそうです。

あと、キース·リチャーズの娘さんの名前が「ダンデライオン」と言うというのも割と有名な話なのですが、誕生されたのはこの歌が出た何年も後だったとのことで、当初からその人のために作られた歌だという歌でもなかった、とのことでした。なお、この歌がライブで演奏されたことは今までに一度もないそうです。

特に難しい言葉が使われているわけでもないし、どんなことが歌われているのかも大体のことは分かるのだけど、それでも文法的にどう解釈していいのか分からない部分が多くて、10代の頃には翻訳に手が出せなかった歌でした。以下、試訳です。


Dandelion

Dandelion

英語原詞はこちら


Prince or pauper, beggar man or thing
Play the game with every flower you bring

びんぼーだいじんおーだいじん
びんぼーだいじんおーだいじん
きみが持ってきてくれる花を
ぜんぶ使って遊ぼう


Dandelion don't tell no lies
Dandelion will make you wise
Tell me if she laughs or cries
Blow away dandelion

タンポポさんはウソなんかつかない
タンポポさんは何でも教えてくれる
あの子は笑ってくれるかな
それとも泣き出しちゃうのかな
タンポポの綿毛を吹き飛ばそう


One o'clock, two o'clock, three o'clock, four o'clock chimes
Dandelions don't care about the time

1時の2時の3時の4時の鐘
タンポポのみなさんは
時間なんか気にしたりしない


Dandelion don't tell no lies
Dandelion will make you wise
Tell me if she laughs or cries
Blow away dandelion

タンポポさんはウソなんかつかない
タンポポさんは何でも教えてくれる
あの子は笑ってくれるかな
それとも泣き出しちゃうのかな
タンポポの綿毛を吹き飛ばそう


Though you're older now its just the same
You can play this dandelion game
When you're finished with your childlike prayers
Well, you know you should wear it

きみはもう子どもじゃないけど
何も変わっちゃいないさ
タンポポを吹き飛ばして遊んだって
いいんだぜ
ちっちゃな子みたいに
おまじないの言葉を唱えたら
きみのからだをタンポポで飾るといい


Tinker, tailor, soldier, sailors lives
Rich man, poor man, beautiful, daughters wives

鋳掛け屋さん
仕立て屋さん
兵隊さん
水夫さん
の人生
金持ちに
貧乏人
うつくしい
娘さんに
おかあさんたち


Dandelion don't tell no lies
Dandelion will make you wise
Tell me if she laughs or cries
Blow away dandelion

タンポポさんはウソなんかつかない
タンポポさんは何でも教えてくれる
あの子は笑ってくれるかな
それとも泣き出しちゃうのかな
タンポポの綿毛を吹き飛ばそう


Little girls, and boys come out to play
Bring your dandelions to blow away

女の子も男の子も
外に出て遊ぼう
自分のタンポポを持ってきて
空に吹き飛ばそう


Dandelion don't tell no lies
Dandelion will make you wise
Tell me if she laughs or cries
Blow away dandelion

タンポポさんはウソなんかつかない
タンポポさんは何でも教えてくれる
あの子は笑ってくれるかな
それとも泣き出しちゃうのかな
タンポポの綿毛を吹き飛ばそう



「pauper」「beggar」は貧しい人間に対する蔑称であり、差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しました。

=翻訳をめぐって=

Prince or pauper, beggar man or thing

直訳するなら「prince」は「王子(サマ)」なわけだけど、いくら歌詞だからといって自分も同じように「王子(サマ)」などという言葉を使ってしまったら、この社会に存在している不条理な身分差別を自分自身が追認することにしかならないので、私は使いたくない。

同様に「pauper」は「生活保護で暮らしている貧しい人」で「begger」は「物乞いをして暮らしている貧しい人」を指す言葉だが、上記の如くどちらも蔑称である。日本にも同様の子どもの手遊び歌はあるわけだが、「子どもの歌うことなんだから放っとけばいい」みたいなことを言えるオトナがいるとしたら、それは「自分が」差別をやめる気を持っていないということなのである。

まあ、私に子どもがいたとして、「びんぼーだいじんおーだいじん」ぐらいの歌ならば、歌っていても特に何も言わないと思う。(ちなみにこの場合の「だいじん」は「大尽=カネ持ち」を意味しており、「大臣」ではない)。私に子どもができるとしたら「貧乏人の子」になってもらうしかないわけで、「貧乏は恥ではない」と思ってもらえるようには育てたいと思うけど、そう思ってもらえなかったとしたらそれは私の不徳の致すところなのである。ふう。何を100%ありえない話でブルーになっているのだろう。私。

けれども学校で大富豪とか覚えてきて、友だちやきょうだいのことを「貧民」とか「ド貧民」とか言い出すようになったりしたら、そこはやっぱり「ちょっと待て」と言うと思う。それを放っておいたらその子は必ず、「貧しい人間は蔑視してもかまわないのだ」という感覚を「空気のように」身につけてゆくことになるのである。

自分の子どもにそんな言葉を使わせたくないと思うなら、まずは私自身がそれを「使わない」ことから始めてゆく他にない。このブログの三大ルールのひとつとなっている「差別表現に見て見ぬふりはしない」に「基準」を設けるとしたらそこらへんになると思うわけだが、そういう「基準」は文章を書く人であれば、特に意識することがなくても誰もが必ず持っているはずのものだと思うのである。なので私は自分のやっていることが「特別なこと」だとは、全然思っていない。

さてそのことの上で、このフレーズをめぐって私が中学生の頃からずっと分からなかったのは、最後に出てくる「or thing」って何なのだ、ということだった。「man or thing」で区切って「人間と非生物」みたいに解釈すべきだろうかとかいろいろ考えていたのだが、ネイティブの人に聞いてみたところ単に語呂合わせのためだけに挟まれている言葉で、ほとんど意味はないらしい。強いて言えば「whatever (何でも)」 みたいな意味だよと教えてもらったので、それならわざわざ訳出する必要はないと考えて上のような訳し方になったわけだが、同じように悩んでいた方がいらっしゃったら、参考にされたい。


ダンデライオン 松任谷由美&平井堅

金色のライオン 川村カオリ

祈り~徘徊(ライオンのうた) アンジー

ライオンのうた三連発。なくな。をまへは。しぬまで。ぜつたい。なくな。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1967.8.18.
Key: B♭