華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Dig It もしくはこのブログでやってること (1969. The Beatles)



「Dig A Pony」の次には別の曲を予定していたのだけど、同じアルバム「Let It Be」の中に収められている「Dig A Pony」と「Dig It」には私の中でずっと「兄弟曲」みたいなイメージがあるので、「Dig A Pony」を取り上げた以上は「Dig It」も取り上げておかなければ何となく落ち着かない気がする。だからこの際、併せて翻訳することにした。

ちなみに私は「失敗作」だとか「破産した作品」だとか何かと酷評されることの多いこの「Let It Be」というアルバムをかなり好きだし、発売時期は早かったけど録音時期は遅かったという理由で実質的に「ビートルズ最後のアルバム」と見なされることの多い「Abbey Road」より、グループ解散と同時に発表されたこの「Let It Be」の方が、より「最後のアルバム」と呼ばれるにふさわしいアルバムなのではないかという気が、昔からしている。関係者のそれぞれが「納得」した上で作成された感のある「Abbey Road」より、「Let It Be」の方が「誰にも状況をコントロールすることができなくなってしまった『終わり』の雰囲気」を、より濃厚に切り取っている感じがするからである。

「Dig It」はもともと「Can You Dig It?」という仮タイトルがついた、15分にもわたる長いジャムセッションだったらしいのだけど、「Dig It」という曲としてアルバム「Let It Be」に収録されているのは、そこから切り取られた短い断片で、51秒の長さしかない。「作品」と言うよりは「記録」みたいな曲である。発表されたそのままの音源はYouTubeに見つけることができなかったので、代わりにイタリアの人と思われる誰かが作ったカバーバージョンの動画を、ここには貼りつけた。この曲をわざわざカバーしようと思う人の情熱には、なかなか他人の解釈を拒むものがあるけれど、最後のジョンの声真似まで含めて、すごく良くできているとは思う。


Dig it - The Beatles - Fausto Ramos

Dig It

英語原詞はこちら

Like a rolling stone
Like a rolling stone
Ah like a rolling stone
Like the FBI and the CIA
And the BBC, BB King
And Doris Day
Matt Busby
Dig it, dig it, dig it
Dig it, dig it, dig it, dig it, dig it, dig it, dig it, dig it

ライク·ア·ローリング·ストーン!
ボブディランでおなじみの
ライク·ア·ローリング·ストーン!
言葉通りの意味としては
転がる石のように!
気持ちとしてはちょっとだけ
ローリングストーンズみたいに!
FBI(アメリカ連邦捜査局
CIA(アメリカ中央情報局)みたいに!
そしてBBC英国放送協会みたいに!
BBキングみたいに!
ドリス·デイみたいに!
マット·バスビーみたいに!
掘り下げて 味わいつくそう。
掘って 楽しんで 味わって
探求して 理解を深めて お気に入りにしよう。
それを。


[That was "Can You Dig It" by Georgie Wood. And now we'd like to do "Hark The Angels Come".]
(今のはジョージ.ウッドの「君はそれをディグできるか」もしくは「気に入った?」」もしくは「きみにわかる?」もしくは「きみに見つけられる?」etc...という曲でした。続いてお送りするのは「耳を傾けよ、天使たちがやって来る」という曲です。)


Like a Rolling Stone
…ディランが歌っているバージョンは「違う!」と言いたくなるようなやつしかYouTubeには上がっていなかったので、ローリングストーンズが30年後にカバーしたバージョンでどうぞ。オリジナルを聞きたい人はアルバム「追憶のハイウェイ61」を、自分のやり方で手に入れるしかないみたいです。
ライク・ア・ローリング・ストーン - Wikipedia


B.B.キング - Wikipedia


ドリス・デイ - Wikipedia


マット・バスビー - Wikipedia]

曲の終わりに収録されているジョンによる「曲紹介」は、もともと別のセッションで録音されたものらしいのだけど、"Hark The Angels Come"という架空の曲名が次のアルバム曲である「Let It Be」のイントロとしてピッタリなので、「切り貼り」で付け加えられたのだという話である。(ということは「Let It Be」も翻訳しなければ、収まりがつかないのだろうか?)ちなみに私はこの「ジョンの裏声しゃべり」というやつが、いろんな人のことを見下しているようでとてもカンに触るので、好きではない。

映画「Let It Be」ではこの曲のセッションの様子が、全体ではないけれどもう少し長く、4分30秒にわたって公開されている。苦労して文字に起こしてくれた人のテキストを見つけることができたので、併せて翻訳しておきたい。(太字で示した部分が、レコードに収録されている部分である)。この映画のシーンの動画もYouTubeには上がっていないけど、探せば見つかるようになっている。

You can get it if you want it. And if you want it, you can get it. So come on. Come on. For Christ's sake, come on. Dig it up. Dig it up. Dig it up. Dig it up. Are you big enough to get it? How big enough to get it? Well, you're big enough, come on and get it. It's free. I love it. can't do without it. I can hardly keep my hands still. Yes I can. I can't give them beat still either. What's so [...] baby? Well, you can dig it in the morning, and dig it every day. You dig it after tea. And you can dig it after pray. You gotta dig. Come on. Come on. Like a rolling stone. Like a rolling stone. Ah like a rolling stone. Like the FBI and the CIA. And the BBC, BB King. And Doris Day. Matt Busby. Dig it. Dig it. Dig it. Dig it. Dig it Dig it. Dig it. Dig it. Dig it. Dig it. Dig it. Dig. Give it if you want it. You can get it if you want it. If you need it, you can ask for it any time of day. Christ. Come on. Come on and dig it any time of day and any time of night. Dig it in the morning. Dig it. Dig. Come on and get it. Get it. Get it. Get it. Get it Get it. Well, can you dig it in the morning? Dig it in the evening. Dig it any time of day. If you want it, all you gotta do is ask for it nicely. Say "if you please" and you're gonna get it. You're gonna get it all right. You're gonna get it, yeah. You're gonna get it. This time, you're gonna get it good. Hey, hey,hey...
それは手に入る。君が望むなら。そして君が望むなら、それは手に入る。だからおいで。行こう。キリストのために、行こう。ディグするんだ。ディグするんだ。ディグするんだ。君はそれを自分のものにできるくらいオトナかな?どれくらいオトナになればそれが手に入るのかな?うん君はもう充分にオトナだ。こっちに来てゲットするといい。お金はかからない。ぼくは好きだな。それなしじゃ何もできないな。手を動かさずにはいられないな。いられない。やつらをやっつけてやることも同じくまだできない。何がそんなに…(聞き取り不能) ベイビー? ねえ君は朝からディグできるし一日中ディグしてたってかまわない。お茶の後にはディグを。お祈りの後にもディグしてかまわない。ディグしなくちゃ。おいで。行こう。Like a rolling stone! Like a rolling stone! ああライク·ア·ローリングストーン。FBIとCIAみたいに。そしてBBCみたいにBBキングみたいに。ドリスデイみたいにマットバスビーみたいに、ディグしよう。掘り下げて 味わいつくそう。掘って、楽しんで、味わって、探求して、理解を深めて、お気に入りにしよう。それを。ディグしよう。君が望むならむしろ与えることだ。君が望めばそれは手に入る。もし君が必要なら、いつだってお願いすればいい。キリスト。おいで。行こうそして昼だろうと夜だろうとディグしよう。朝からディグしよう。行こうそしてゲットしよう。ゲットしよう。ゲットしよう。ああ、朝からディグできるかい? 日が暮れてもディグするといい。好きな時間にディグしよう。君がそれをほしいなら、ていねいに頼むことだ。「よろしければ」とお願いすれば、それはもう君のものだ。大丈夫ゲットできる。きっと手に入る。いぇあー。今度という今度はきっと手に入る。いいぞ。へいへいへい…

…何をやっているのだろう、という気が自分でも少しだけしてくるのだけど、こうやって貼りつけておけば、いずれ誰かの役に立つことはできるに違いない。

前回の「Dig A Pony」の翻訳でdigという動詞についてはかなりdigしたと思う。「わかる」「味わう」「楽しむ」「好きになる」といったニュアンスをザックリ表現した言葉で、それに元々の意味の「掘り下げる」「探求する」などの語感が含まれた動詞である。そういう風に説明されてみると、自分がこのブログでいろんな曲についてやってることそのものではないかという風に思えてくるのだが、しかしこれだけいろんな含意を持った言葉を特定の日本語に置き換えるのは、どう考えたって無理がある。結局は「ディグする」とか「ディグる」といった形でこの英単語を丸ごと日本語の中に取り込んでしまう以外に、うまい訳し方は存在しないのかもしれない。

とはいえ、例えば「ゲットする」という言葉は「日本語化」して久しいわけだけど、日本語化した「ゲットする」からは「手に入れる」という以外のあらゆる意味が削ぎ落とされている。「ゲットする」という言葉からgetという言葉の「正確なニュアンス」を類推することは、今や「ミシン」という言葉からmachineというものの全体像を類推するのと同じくらいの不可能事となっていると言っても過言ではない。「一知半解」は、時として何も知らないことより遥かにタチの悪い誤解を引き起こす。そう考えると安直に「カタカナ翻訳」に頼るのも、やっぱり善し悪しである。つまるところ、文脈をどれだけ正確に読み込めるかというところで勝負するしかないのだろうな。

この曲のセッションの別バージョンがYouTubeに上がっているのを見つけたのだが、ここでは後半でジョンが自分たちのいろんな曲の名前を連呼している。真心ブラザーズの倉持さんが「拝啓ジョンレノン」でやっていたのと同じことを、実はジョンレノンが自分でやっていたのだ。と言うよりジョンレノンが先にやってみせたそのスタイルを真心ブラザーズの皆さんが踏襲したと考えた方が順番としては正確なのだろうけど、私はその辺の事情について全然知らなかったので、今回この曲について調べていてこの動画に出会った時にはものすごく新鮮な感じがした。しかし1ヶ月もすれば上の動画は消されていて、「拝啓ジョンレノン」の動画だけが残されていることになっているのだろうな。とはいえブログはライブと同じなので、それはそれで構わない。訳詞を外国語の原詞つきで読んでもらえるのも、今後は記事を上げてからすぐに読んでくれた人たちのためだけの「特典」である。


The Beatles - Dig It (26.27 )


真心ブラザーズ 『拝啓、ジョンレノン』

…こんな短い曲で、こんないろんなことを書く羽目になるとは全然思っていなかった。ではまたいずれ。

abbeyroad0310.hatenadiary.jp