華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Ideology もしくは自由の鐘 (1986. Billy Bragg)



このブログではいつも、取りあげる曲のレコードジャケットやそれが収録されているアルバムのジャケットの画像を見出し代わりに使っているのだけれど、同じアーティストの同じアルバムから何曲も翻訳していると、使える写真も底をついてくる。(ヴェルヴェッツの特集をああいう形でやれたのは、あのアルバムだからできたことである)。だから今回は、このかん愛読させて頂いている id:fukaumimixschool さんの姉妹ブログ「大関いずみ作品集」から、画像を使わせて頂いた。

最近の私は自分のブログのPV数よりも、朝起きた時にこの人の読者数が何人増えているかの方がよっぽど気になっている。こんなに誰かのファンになったのは久しくなかったことだし、自分より年下の人(おそらく年下の人)の本当のファンになったのは、ひょっとして生まれて初めてかもしれない気がする。

生まれて初めてかもしれない気がするからすごく新鮮に感じるのだけど、自分より年下の人の人から何かを教えてもらえたり何かに気づかせてもらえたり、その人に憧れたりすることができるというのは、何て素敵なことなのだろう。思えば私が今まで憧れたり好きになったりしてきたアーティストは、ずっと自分より年上の人ばかりだった。そして年上の人のファンになる時には、いつも自分の中のどこかに「対抗意識」があった。突っ張ったり背伸びしたりして何とかその人に近づきたいと思ったり、あわよくば越えてやりたいと思ったり、そんなことばかり考えていた。

自分より年下の人のファンというものになってみると、それとは逆に、自分がものすごく素直で謙虚になっていることを感じる。これは今までに味わったことのなかった感情である。ある一定の年齢に達した女の人がおもむろにジャニーズのファンになったりする気持ちが、今なら何となく分かるような感じさえしてしまう。対象の中身は全然ちがっているかもしれないけれど、たぶん本質的なところは一緒なのである。

年上の人に憧れる時の気持ちは、いつも「自分のみじめさ」「ちっぽけさ」と裏腹だった気がする。あの人はあんなにカッコいいのに自分はどうしてこんなにセコいのだろう、という思い。あの人はあんなにいろいろなものを持っているのに自分はどうして何も持っていないのだろう、という思い。あの人の生きた時代はあんなに輝いていたのにどうしてこの時代はこんなにショボいのだろう、という思い。つまるところは「空っぽの自分を満たしてもらうため」に人を好きになることしか、自分は知らなかったのではないか。と思う。それで勝手な思い入れで人のことを好きになって、自分の思ってたのと違うところが見えてきたら途端に「だまされた」ような気持ちにさえなって、やがて悪口しか言わなくなって…何てこったろう。このブログでやってきたことも、振り返ってみればそんなことばかりではないか。本人の主観としては「裏切られた」みたいな被害者意識に固まっていたりするのだけれど、そのじつ自分のやってきたことというのは尊敬すべき人たちのことを「使い捨て」で「消費」することばかりで、そういうことが「許してもらえた」のは結局その相手がみんな年上の人たちだったからだ。ということが今なら分かる気がするのである。

けれども年下の人から何かに気づかせてもらった時の気持ちというのは、それとは逆に「自分の生きてきた時代も捨てたものではなかったのだ」という感覚と結びついている。自分が憎しみさえ込めて「使い捨て」にしてきたその同じ時間の中で、こんなにも豊かで美しい心を育んできた人がいたのだ、という事実に、素直に感動させられるし、反省もさせられる。そしてそういう相手の前では「突っ張る」のではなく、何より「自分もしっかりしなければならない」という気持ちにさせられる。言い換えるなら年上の自分自身の未来にも、希望が持てるような気持ちが生まれてくるのだ。

「だれだれ先生のことを私は尊敬しております!」みたいなことしか言えない人間に、人間はなるべきではないし、またそういうことしか言えなくなってしまった人は、自分が「不幸」なのだということに、早く気づいた方がいいと思う。(蛇足だが、そういうことを「言わせる側」の人間には、もっとなるべきではない)。いくつになってからだって、生きるに値する本当の希望というものは見つけられるはずだと思うけど、とりあえずそういう生き方をしている限りは、永遠に見つからないだろうと思った方がいい。一応これは衆院選が近いことをも念頭に置いた「時事ネタ」になっております。

「画像は好きに使ってかまわない」というオノさんのご厚情に甘えて、今回自分のブログアイコンも「ミチコオノ日記」からの画像に変更させて頂きました。鉄道ファンと言うわけではないけれど、私は「電車」が割と好きなのです。そしてこの電車の「柄」は、私が10代の頃に毎日乗っていた電車にすごくよく似ている。ブログタイトルとの関連で言うならば、この電車は同時に「ダンヴィル鉄道」でもあるのだとかいった具合に、こじつければよろしい。(蒸気機関車の時代に「電車」はなかったわけだが、そこはそれ、このブログのテーマがもともと「カン違い」から始まったことを、逆に雄弁に物語ってくれてもいるのである)。

もしもこの人が描きたいものや書きたいことを全部かきつくして次に何をかいたらいいか分からなくなるような時がきたら、その時は平端駅の北側で近鉄橿原線から分かれて東に向かう天理線の線路をかいてみてほしい、と私は100%個人的な趣味で思う。

自分の向かっている方向から直角に右に折れてどこまでも真っ直ぐ続いてゆくその線路の先に、子どもの頃の私は「世界の終わり」が待っているような感じが、いつもしていたものだったのだ。

それが今回とりあげる曲とどういう風な形で関係しているのかというと

たぶん何らかの形では交わっているのではないかと思う。

ではまたいずれ。


Ideology

Ideology

英語原詞はこちら


When one voice rules the nation
Just because they're on top of the pile
Doesn't mean their vision is the clearest
The voices of the people
Are falling on deaf ears
Our politicians all become careerists

ただそいつらが
ピラミッドの頂点にいるからという理由で
ひとつの声によって
国が支配されることがあっても
それはそいつらのビジョンが
一番クリアだということを
意味しているわけではない。
ひとびとの声が届くのは
聞く耳を持たない耳の上。
おれたちの政治家は
みんな出世主義者になってゆく。


They must declare their interests
But not their company cars
Is there more to a seat in parliament
Than sitting on your arse?
And the best of all this bad bunch
Are shouting to be heard
Above the sound of ideologies clashing

彼らは誰が自分のスポンサーなのかを
明らかにしなければならないはずなのに
自分たちの会社のクルマのことについては
何も明らかにしない。
議会のイスってのは
何もしないで座っているために
あるものなのかい。
そしてそのどうしようもない集団の中で
一番まともな人たちの声は
イデオロギーがクラッシュする音の中に
かき消されてゆく。


Outside the patient millions
Who put them into power
Expect a little more back for their taxes
Like school books, beds in hospitals
And peace in our bloody time
All they get is old men grinding axes

国会の外では
かれらに権力を与えてやった
我慢強い何百万人もの人々が
自分たちの払った税金が
学校の教科書や病院のベッドや
平和というものに変わって
少しでも自分たちのもとに
返ってくることを期待している。
でもみんなが手にするのは
斧を研ぎ澄ましてる老人たちだけってわけだ。


Who've built their private fortunes
On the things they can rely
The courts, the secret handshake
The Stock Exchange and the old school tie
For God and Queen and Country
All things they justify
Above the sound of ideologies clashing

ゴマすり屋もしくは裁判所
秘密の握手
証券取引所に出身校のコネ。
そういうものに頼れるだけ頼って
個人的な財産を築きあげたのは誰だ。
神と女王と国家のために
かれらはすべてを正当化する。
イデオロギーのクラッシュする音が
鳴り響いているそのはるか上の方で。


God bless the civil service
The nations saving grace
While we expect democracy
They're laughing in our face
And although our cries get louder
Their laughter gets louder still
Above the sound of ideologies clashing

公務員と名のついたものと
気品を絶やさない国民とかいうものに
神の恩寵を。
デモクラシーを求めているおれたちを
やつらは思いきり嘲笑っている。
おれたちの叫び声は
どんどん大きくなるけど
やつらの笑い声も
どんどん大きくなり続けてる。
いくつものイデオロギー
クラッシュする音が鳴り響く
そのはるか上の方で。


deafというのは、「聴覚障害者」に対する差別語です。ここでは原文をそのまま転載しました。


Ideology

==============================

はじめての方へ(総目次)
曲名索引(ABC順)
邦題索引(あいうえお順)
アーティスト名索引(ABC順)
アーティスト名索引(あいうえお順)

Ideology

Ideology